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坂本慎太郎 "できれば愛を(Love If Possible)"

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Artist: 坂本慎太郎
Album: "できれば愛を(Love If Possible)"
Label: Zelone Records
Year: 2016

Tracklist
01. できれば愛を(Love If Possible) (5:26)
02. 超人大会(Tournament of Macho Man) (3:42)
03. べつの星(Another Planet) (4:39)
04. 鬼退治(Purging The Demons) (3:25)
05. 動物らしく(Like an Animal) (3:56)
06. 死にませんが?(Feeling Immortal) (4:04)
07. 他人(Others) (6:17)
08. マヌケだね(Foolish Situation) (4:00)
09. ディスコって(Disco Is) (4:57)
10. いる(Presence) (3:44)
※初回版・通常版ともに上記のインスト盤(Disc 2)が付属


坂本慎太郎の新作を聴く度、学生時代に先輩が彼を評して言った「現代の妖怪」という言葉に納得しているような気がします。
最新作の"できれば愛を"でもそれはいつも通り、あるいは、もしかするとこの作品は今まで以上に彼の「妖怪」感=底知れなさを物語る作品なんではないかな、と思えてきます。

前作"ナマで踊ろう"は、あえて強烈にポリティカルな言葉を使い、それを政治など全く関係ないかのようなサウンドと組み合わせることで、言葉そのものを「一種のステレオタイプなイメージ」と「本来の意味」の2つの側面で認識させ(あるいは認識させなくさせ)、ユートピア/ディストピアが反転しながらないまぜになるようなサイケデリアをリスナーにつきつける、非常にコンセプチュアルな作品であったと思います。
正直鬼気迫るほどの完成度だったと思いますので、次の作品が大層作りづらいだろうなぁ、とは思っていたのですが、当の本人はこんな一リスナーの心配などどこ吹く風といった雰囲気で、さらりと本作のような作品をドロップしてくるのだから、もう降参です(笑)

まず、アルバム開始と同時に強く意識されるのは、音の鳴りではないでしょうか。
坂本がインタヴューで「部屋鳴りとかも一緒に録った」と言っている通り、本作は全編通しスタジオの部屋/壁の存在、そしてそこで演奏しているメンバーの息遣いを感じさせるような生々しい音で録音されることで、非常に印象深いサウンドに仕上がっています。
最初のドラムが入ってきた瞬間から、まるで彼らの演奏するスタジオに招かれたかのような錯覚に陥るのですが、同時に、スタジオの外の世界は全く存在していないかのようでもあり、かなり地下室っぽい、密室感のあるサウンドでもあると思います。

楽曲については今回も、ゆらゆら帝国時代の"空洞です"から地続きの「宙吊りのサイケデリア」を強く感じさせるものになっているように思います。
重心低めでちょっぴりレゲエ/ダブっぽいゆるさのあるドラム、モコモコとした音像で這いまわるベース、ドリーミーな音色で浮かんでは消えるキーボード、艶やかなサックス、おどけて転がるマリンバ、そしてもはや彼のソロ作品でのトレードマークとも言えるラップスティールギターが織り成す音は相変わらずファンク/AOR/ソフトロックを視野に入れたスムースなものです。
かなりシリアスな感のあった前作に比べるとメロディも人懐っこいものが多い印象で、全体的な雰囲気には、むしろ1st"幻とのつきあい方"とその後のシングル"まともがわからない"あたりに通底するようなものがあります。

坂本の声には相変わらず思慮深さとエロスが宿っておりますので(笑)、彼が歌い出すとどうしても得も言われぬ不気味さが漂うようには感じますが、歌われる歌詞については対立する2つの要素のどちらにもよらない、というような内容のものが多く、そういった部分でも相変わらずの「宙吊り感」が強く感じられます。
正直、歌詞については多くの人がシリアスにとりすぎというか、むしろ「声」という独特のテクスチュアを持った楽音だと思った方がいいのかな、なんて思ったりもするんですよね。
なんと言っても、バンド時代の'空洞です'では「通ってごらん」なんて言ってた「空洞(穴ぼこ)」について、今回はそこに「何か入れてくれ」なんて歌ってるんですから(笑)

この「意味があるようでないような(それでやっぱりあるような)感じ」が、何度も申しますように「宙吊り感」につながっているわけです。
坂本自身、「朝起きて、「ああ今日から夏休みだ」と思って。「まだ寝てていいんだ」って思う。その思った瞬間を引き延ばしたような音楽」なんて語っていますが、密室感の強い、外界を意識させないサウンドと彼の歌とが合わさって、今作を聴いている間はまるで時間が止まっているような感覚に陥ります。
前作は全てが過ぎ去った後の世界を設定することで時間を超越した部分に作品を置くことに成功しましたが、今作はむしろ「今」という一瞬にフォーカスして、それを永遠に思えるまでに引き伸ばすことで時間そのものを無化しようとしてるのかもしれません。

彼の声、歌詞、そしてメンバーたちの生み出すサウンドは正にそれを達成していると思いますし、そのおかげか今作は聴いていて、嫌なことを全て忘れさせてくれるようでとても心地よいです。

また、前作についてはSly & The Family Stoneの"There's A Riot Goin' On(暴動)"とつなげるような評が多かったような記憶があります。
それになぞらえれば、前に比べればポップだけど、それでも閉塞的で密室的な空気を存分に香らせる今作は坂本なりの"Fresh!"であるようにも思えます。

聴けば聴くほど、彼が普通の感覚で作品を作っていないんだということをつきつけられている気分ですね。
やはり「現代の妖怪」は伊達じゃない、といったところでしょうか(笑)


Various Artists "Day of the Dead"

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Artist: Various Artists
Album: "Day of the Dead"
Label: 4AD/Red Hot Organization
Year: 2016

Tracklist
(多すぎるので割愛します。詳細はこちらを。)


USのインディー・ロック・バンドThe Nationalのアーロン&ブライス・デスナー兄弟の主導により、Grateful Deadのトリビュート作品が、なんとCD5枚というフルヴォリュームにて制作されました。
本作は、かれてよりポップカルチャーを通じてAIDS撲滅のための運動を続けてきたRed Hot Organiztion(フェラ・クティやアーサー・ラッセルなどのトリビュート作もここを通じて出ています)の運動の一環でもあり、2012年以降4年もの歳月をかけて準備されたもののようです。

しかしながら、今回題材に選ばれたGrateful Deadについて、我々日本人がどの程度の実感を持って接しているのか、正直な所疑問に思わざるを得ません。
あのフランク・ザッパですら「一般的なアメリカのキッズの希望」のステレオタイプとしてデッドのライヴという事象を歌詞中に引用している("You are what You is"収録の'Teen-age Wind'冒頭)ことからも、デッドの音楽はアメリカ人のどこか深いところに根ざした音楽である、ということは薄々感じるところではあります。
また、熱狂的なデッド・ヘッズによるライヴのオーディエンス・テープの共有(シェアリング)を許可したり、それどころかテーパー用のブースまでライヴ会場に設置したり、仲介業者を挟まずに直接チケットを販売したり…と今日的な音楽ビジネスの先駆け(どころかまだ数歩先に行ってる?)と見れるような試みもしており、そのことが彼らの音楽に「アメリカ文化の偉大な一部」として根を下ろすことを可能にしたのだろう、という推測など、客観的な事象の分析からはいくらでも言えるのでしょうが、ではそんなことで魅力ゼロの音楽がここまで評価されるのか、というと当然ノーなわけでして、やはりデッドの音楽そのものにアメリカ人の心を掴んで離さない何かがあるのだ、と考えるのが妥当でしょう。
そして繰り返しますが、我々日本人リスナーの殆どは、それをきっと理解/体感できていないのです。

そこへきて今作です。
5時間半にも及ぶ長大な作品の中には、USインディー・ロック界だけでなく様々なジャンルのミュージシャンが参加しています。
最もジャンル的に近しいと思われるオルタナ・カントリー界からはWilcoを初めボニー"プリンス"ビリーことウィル・オールダムやルシンダ・ウィリアムスなどが、電子音楽界隈からはなんとティム・ヘッカー(個人的に一番の驚きでした)が、ジャズ界ではヴィジェイ・アイヤーが、モダン/インディー・クラシックに関係するSō Percussionや、果ては国外よりセネガルのOrchestra Baobabなど、ざっと挙げただけでもカオスとしかいいようのない雰囲気は伝わると思います。

もちろん、彼らの手によりデッドの音楽は様々な変貌を遂げています。
各曲の詳細については、twitterでフォローさせて頂いているAbstellraum(@Abstellraum4)様がブログ記事において簡潔に触れてくださっていますので、そちらをご参照いただければと思いますが、個人的に印象に残ったものに少し触れておきますと、主宰のブライス・デスナーはガルシアのギターを題材に、ライヒ風のミニマル作品(ディスク3の3曲目。タイトルがそのまんま)を構築していますし、ティム・ヘッカー(ディスク2の9曲目)は最早未発表曲と言われても信じてしまいそうな雰囲気です。
その他、ディコティックな原曲をややデカダン気味のデジタルファンクに仕上げたUnknown Mortal Orchestra(ディスク4の5曲目)やはり未発表曲と言われても信じてしまいそうなアイヤー(ディスク4の11曲目)や、がっつり実験音楽のSō Percussion(ディスク5の7曲目)あたりが今のところ特に印象に残っています。
個人的には偏愛している'Deupree's Diamond Blues'("Aoxomoxoa"収録)を誰か(名前通りテイラー・デュプリーとか笑。4AD絡みとはいえティム・ヘッカーがいるんだからやればできたのでは?笑)にやってもらいたかったところですが、それがなかったのは多少残念です。

多少話が脱線気味になりました。
色々なミュージシャン達がデッドを色々な切り口で料理していますが、これは別にデッドそのものが横断的な要素を含んでいるというよりは、それだけアメリカ音楽のイディオムの深奥にデッドが根を下ろしているということの証明なのではないかと思うのです。
そもそもデッドの根本的な音楽性自体、ブルーズ/ブルーグラス/カントリー/ロックンロール/ジャズを主軸として、その先祖としてのUKトラッドを根底に持っていますが、他の要素(サイケデリックやアメリカン・ロック、またはレゲエやディスコ)は時代の要請により同調していった部分が大きいのではないかと思います。
つまりは、後述の方の要素は元々の彼らのイディオムとはちょっとずれている、だからこそ表層的には様々なスタイルの作風が聴けるのですが、やはり根本にはずっしり先述した方の要素(ブルーズ他)が横たわり、普遍的にアメリカ音楽と同化しながら、同時代的な音楽にも同化するという稀有な所作を見せたことがデッドの(アメリカにおける)永遠性/普遍性につながっていったのかな、と思うわけです。
「古くて新しい」あるいは「新しくて古い」、時代性を超越したロック・バンド、それこそがデッドなのかなぁ、と。

これをもって「アメリカ人の感覚と全く一緒だ、私は彼らの感覚を理解した」などと言うつもりは毛頭ありません。
正直な所サイケファンの私としては、デッドはやはりアメリカンサイケの筆頭バンドであることに変わりはありませんし、70年代後半以降の作品をこれから聴くようになるか、というと正直わからないところでもあります。(そもそも、まだ聴けてない作品もたくさん…)
でも、こんなことを考えたのも5時間を超える本作をだらだらと流しながら聴いたからであり、そのおかげでほんのちょっぴりだけ、小さな一個人からしたら無限に等しい地平と時間を有するアメリカの空気と、そこに深く根を下ろしているデッドというイメージが感じられたからなのです。

本作は、デスナー兄弟のというよりは、アメリカそのものの、デッドに対する愛がそのまま形になったようなコンピレーションなのです。
"United States Loves Dead"という感覚、理解できなくて悔しい気持ちはあれ、なんだか羨ましい気がします。


やっぱ一番好きなのはUnknown Mortal Orchestraかなー。

King Crimson "Live in Toronto"

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Artist: King Crimson
Album: "Live in Toronto"
Label: DGM
Year: 2016

Tracklist
Disc 1
01. Threshold Soundscape (4:00)
02. Larks Tongues In Aspic Part I (10:29)
03. Pictures Of A City (8:32)
04. VROOOM (5:18)
05. Radical Action To Unseat The Hold Of Monkey Mind (3:20)
06. Meltdown (4:51)
07. Hell Hounds Of Krim (3:31)
08. The ConstruKction Of Light (6:44)
09. Red (6:47)
10. Epitaph (9:02)

Disc 2
01. Banshee Legs Bell Hassle (1:43)
02. Easy Money (8:33)
03. Level Five (7:04)
04. The Letters (5:38)
05. Sailors Tale (6:56)
06. Starless (15:18)
07. The Court Of The Crimson King (7:17)
08. 21st Century Schizoid Man (11:41)


昨年の12月、サンポートホール高松で観たKing Crimsonのライヴは、今思い返しても素晴らしいものでした。
詳細はライヴレポをご覧いただければと思いますが、新旧の名曲を織り交ぜながらも、以前と異なった編成/アレンジにより楽曲に新たな生命を吹き込み、見事にリコンストラクション(ReKconstruKction 笑)してみせた様には、過去の名声を誇るだけの大御所バンドではなく、今なお現役のライヴバンドであるクリムゾン(フリップ)の凄まじさを見せつけられたような思いです。

しかもその高松公演がこの秋にCD/Blu-Rayディスク化するということで、最早私は天に舞い上がるような心地でリリース日を待つ今日この頃なのですが、結局待ちきれずにこの3月にリリースされた、2015年のライヴを初めてフル収録した"Live in Toronto"を購入してしまいました(笑)

さて、今作は日本公演が始まる約半月前の11月20日カナダのトロント公演での様子を余すところなく収録したものです。
まず曲目について言えば、私の観たライヴとは多少違い、'VROOOM'、'The Letters'、'Sailor's Tale'がプレイされている代わりに'Peace - An End'、'A Scarcity of Miracles'、'The Talking Drum~Larks' Tongues in Aspic Part II'がプレイされていません。

その他、'Radical Action...'と'Meltdown'が'Level Five'とは分離した構成となっていますが、前者のリフは明らかに'Level Five'の変奏であると思いますので、やはり日本公演での姿が最終的な完成形なのだろうと予想します。

当日聴けなかった楽曲について言えば'VROOOM'がなかなか面白いと思います。
90s/ダブル・トリオ・クリムゾン復活の狼煙となった曲であるわけですが、元来のヘヴィさはありつつも、メインリフの裏で行われるヴァンプの一部をコリンズのサックスが担っているためか、少しブギーっぽいコミカルな雰囲気に変貌しています。
これはこれで良いのですけど、ちょっと笑えます。

'The Letters'、'Sailor's Tale'については安定した演奏です。
昨年初頭に出た"Live at the Orpheum"から比べてもグッとメリハリが効いており、確かにフリップの言葉通り、この1年間でバンドが「進化している/良くなっている」ことを実感できます。

そしてやはり個人的に嬉しいのは冒頭2曲。
'Larks' Tongues in Aspic Part I'では相変わらずマステロットが当時のミューアを真似て様々なパーカッションを鳴らしまくるのが聴いてて飽きませんし、後者に至ってはライヴレポでも申しましたとおり、今回の編成によって最も進化した楽曲だと思っています。
ギャヴィン・ハリソンの3ドラム・アレンジは非常に現代的で、3者をポリリズミックに織り合わせたり、あるいは同時に鳴らしたりしながら演奏に緩急をつけながらも、基本スタイルとしては非常に重心の低い感覚があります。
一部のファンからは(特に'Red'や'VROOOM'について)「ズンドコ」なんて評があったりもしますが、個人的には根底に微妙にブラック・ミュージック的なエッセンスを感じるといいますか、有り体に言えばファンクやHIPHOPにも似たリズム感覚があるように思うのです。

70年代以前のプログレ的ダイナミズムと、80年代のブラック由来のミニマリズムを折衷しようとしたLineup6期の楽曲である'The ConstruKction of Light'や'Level Five'が生き生きとして聴こえるのもそういった所に起因するのではないでしょうか。
そしてそのセンスは'Pictures Of A City'を全体的に粘っこいグルーヴで満たし、'Schizoid II'から完全に脱却させていると言えます。
いくら'The Talking Drum~Larks' Tongues in Aspic Part II'がないと言っても、この楽曲が聴けるだけでも、現時点で十分に価値があるライヴ・アルバムです。
昨年の公演を見れなかった方は絶対に買うべきです。

そして何より、高松公演の音源/映像化が楽しみでなりません。
それまでは今作を聴いて待ちたいと思います。
ああ、幸せ。


Radiohead "A Moon Shaped Pool"

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Artist: Radiohead
Album: "A Moon Shaped Pool"
Label: XL
Year: 2016

Tracklist
01. Burn the Witch (3:40)
02. Daydreaming (6:24)
03. Decks Dark (4:41)
04. Desert Island Disk (3:44)
05. Ful Stop (6:07)
06. Glass Eyes (2:52)
07. Identikit (4:26)
08. The Numbers (5:45)
09. Present Tense (5:06)
10. Tinker Tailor Soldier Sailor Rich Man Poor Man Beggar Man Thief (5:03)
11. True Love Waits (4:43)


正直な所を申しますと、私には今までRadioheadというバンドのやりたいことがよく分かりませんでした。
"OK Computer"や"Kid A"はそもそもリアルタイムではない(中学生くらいだったので、もしその頃に出会えていればまた色々違った印象を持ったのかもしれませんが)こともあって、飲み込むのに時間がかかりましたし、そういうこともあってリアルタイムで発表された"In Rainbows"や"The King of Limbs"は未だに聴いてなかったりします。
そんな、およそファンと呼ぶべくもない私ですが、今作のリードトラックである'Burn the Witch"を聴いて、今度こそはRadioheadをリアルタイムで聴いてみようかな、と思い今回の緊急リリースに乗っかることにしたのですが、私自身リスナーとして成長したためか、それとも今回の彼らがそういう志向であるからか分かりませんが、今作は非常に聴きやすいポップ・アルバムであったと思います。

アルバムを聴いてみて思うのは、どの曲にも印象的なフックが配されているということです。
先述の'Burn the Witch'しかり、続いて発表された'Daydreaming'しかり、一聴してすぐに口ずさめそうなほどシンプルなメロディに溢れています。
トム・ヨークは相変わらず語尾を引き伸ばすヴォーカリゼーションを見せていますが、メロデイのシンプルさのおかげか、私が今までに感じていただらだらとした抽象的な呟きのような印象が薄まっており、むしろ引き伸ばされる声のラインの中に、スピリチュアルとも言えそうなエモーションが息づいているのです。
こういったヴォーカリゼーションからはちょっぴりシャーマンっぽいというか、イギリス(トラッド)的な、自分の感情を歌うというよりはむしろ物語の語り部的な姿勢を感じます。

実際、10曲目などはタイトルをナーサリー・ライム(マザー・グース)由来のゲームなどからとってきているようですし、また4曲目などではまるでバート・ヤンシュ(The Pentangle)のようなブルーズ系トラッド・フォーク・ギターを聴くことができます。
本作には色々な要素が聴取できるように思いますが、そんな中の一つにUK的なトラッド・フォークからの影響が息づいているのは間違いないでしょう。

その他、'Burn the Witch'ではまるで昨今のインディー・クラシックにも通じるようなストリングスのミニマルな反復が、終盤に向けて狂気的に軋みながら舞い上がっていく様子が聴き取れますし、'Daydreaming'ではいかにも彼ららしいアンビエント×ポップな雰囲気が、'Ful Stop'などでは近作を聴いていない私からすると意外なほどにバンドらしいアンサンブルが聴き取れます。

また、2001年のライヴ・アルバムにのみ収録され、彼らの中でも屈指の歌詞とメロディを持つ人気曲'True Love Waits'がほぼピアノ弾き語りに近いシンプルなアレンジで、しかもアルバムの最後に収録されていることも注目に値します。
そもそも、他の曲でも以前からライヴなどで発表されたことのあるものがあるようですし、彼らが今作の制作にあたり、古くからあるメロディの印象的な楽曲を選び、今までの経験をフル動員してそれらの楽曲のメロディを最も活かせるアレンジメントを施した可能性は高いのではないかと思います。(だからこそ、トムの歌もいつもより良く聴こえる…とか 笑)
'True Love Waits'はその象徴として、今作のラストの相応しい楽曲であったと言えるでしょう。

Radioheadというとどうしても、ロックの前衛を突き進む、あるいはトリッキーな振る舞いでリスナーに新鮮な驚きを与えてくれるバンド、というイメージがついて回るように思いますが、今作はかなり正直にメロディと歌を押し出してきているのではないかと思いますし、そういう点で多くのリスナーに訴求する部分があるのは間違いないでしょう。
素直に、とても聴きやすくて美しい「良いポップ・アルバム」だと思います。


tricot "KABUKU EP"

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Artist: tricot
Album: "KABUKU EP"
Label: Bakuretsu Records
Year: 2016

Tracklist
01. Nichijo_Seikatsu (2:49)
02. 節約家 (4:30)
03. あーあ (4:01)
04. プラスチック (3:28)
05. 青い癖 (5:01)


京都出身のガールズ・ロック・ユニットtricotの新作は、オーディションをくぐり抜けた4人のドラマーと作り上げた5曲入りのEPとなりました。
前作"A N D"については、昨年の個人的なベストディスクにも選ばせていただきましたが、このバンド、とにかくこの2ndあたりから良い曲を書くようになりました。
1stに見られたリズム面でのチャレンジ精神が先行するような空気が全くなくなり、良いメロディ/ハーモニーを活かしていける、効果的なリズム・アプローチができるようになったのです。

このことについては、前作が5名の敏腕ドラマーを迎えて作られたものであった部分にも起因するでしょうし、また、本人たちが言うところによればGarageBandでの作曲にも挑戦していたそうなので、慣れないDTMソフトとの格闘の結果、メロディやハーモニーが丸裸(に近い状態)になったということだったのかもしれません。

そして、昨年12月に発表した新曲'ポーク・ジンジャー'ではそこからさらに一歩進み、元々のリズム志向な部分が成長したソングライティングに同居し始めたような雰囲気を強く宿していました。
間違いなく次回作がより充実したものになるだろう、という予想は難しいものではなかったと思いますが、まさかここまで良い作品を出してきてくれるとは正直思いもしませんでした。
わずか5曲でありながら1曲1曲の個性がしっかりと際立ち、楽曲の流れも素晴らしく、わずか19分強の長さでありながら聴き終わる頃には1枚の大作アルバムを聴き終えたかのような満足感を感じられる、前作に負けず劣らずの傑作と言っても過言ではありません。

アルバムは意外にもドラムレスの楽曲'Nichijo_Seikatsu'からスタートします。
この曲、4人のドラマーとの作業が充実したものであったことから、急遽追加で収録された楽曲のようなのですが、前半は完全に3人によるアカペラ、後半にギターとベースが入ってくるという構成という、tricot史上でもかなり風変わりな曲になったのではないかと思います。
後半のギター・ベースが加わってからの空気はもちろんですが、前半のアカペラ部分のコーラスアレンジが素晴らしく、静かで優しいメロディを併せてこれから続く4曲に大きな期待を抱かせる良い導入曲として機能しています。

2曲目'節約家'は先行でも公開されていましたが、とにかく今のtricotの良さが凝縮されたようなキラーチューンです。
リフ主体のまさにロックナンバーといった体ですが、相変わらずのソリッドな変拍子/リズムチェンジを交えながら最終コーラス部に向かってカタルシスを積み上げていく作風で、さらには中盤にはダブパートも挟み込むというなかなかに実験精神旺盛な楽曲となっています。

3曲目'あーあ'はベースとリムショット主体のドラムから始まる、これまた今までになかったような雰囲気の曲です。
こちらも中盤で大きく曲調が変化しますが、全体的にドラムのフレーズの変化とそれに対応する3人(特にベースのヒロミ・ヒロヒロ)の動きがとてつもなく格好良い、ライヴ映えしそうな曲ですね。
あと、ダブMIXしがいがありそうな曲でもあります(笑)

4曲目'プラスチック'が最もこれまでのイメージに近いのでしょうか。
キダ・モティフォの数学的な単音リフが中毒的なヴァース/ブリッジから、一気に爆発するコーラスと、お手本のようなtricotサウンドと言えると思います。

そして最終曲の'青い癖'は、"T H E"での'おやすみ'、"A N D"での'Break'といったトラックに並ぶ、名クロージングトラックに仕上がっています。
メリハリの効いた楽曲構成は、もしかするとこれまでのクロージングトラックの中でも最もエモーショナルかもしれません。
ラストは美しいエピローグを演出する、空間的なエフェクトを施したギターが印象的なアウトロにより、これ以上ないほどに見事に本作の幕を閉じています。

アルバム通して思うのですが、中嶋イッキュウは本当に良い歌詞を書くようになったし、また感情を歌詞に載せて歌うことができるようにもなりましたね。
本作でも全編通して『傾く』というタイトルにも通底する、何かを喪失することに起因する悲しみを堪えて、あえて強がるような部分が散見できる歌詞が多く、ちょっぴりムーンライダーズ的な男気(?)も感じたりして非常にエモいです。

EPでありながらまた今年のベスト上位にきそうな予感がビンビンする(笑)名作といえるでしょう。
いやーやっぱ私ロック大好きだわ!


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