Tatiana Parra & Vardan Ovsepian "Hand in Hand"

Artist: Tatiana Parra & Vardan Ovsepian
Label: "Hand in Hand"
Year: 2016
Label: NRT/Independent
Tracklist
01. A Planned Chance (4:38)
02. Anima (3::59)
03. Hand In Hand/Kaqawik (5:32)
04. Viva Júlia (4:03)
05. Todo O Sentimento(4:20)
06. Choro Meu (3:25)
07. Quest (1:43)
08. Kaamos (4:41)
09. Filus Treca (3:59)
10. Olha Maria (4:11)
「複雑な演奏を難なくこなす」ということは、もちろんそのミュージシャンの力量を評価する一つのポイントではありますが、そこから一歩踏み込んで「複雑な演奏をこなしながら、それを感じさせない」という領域までくると、得も言われぬ深みのようなものがその楽曲に立ち現れてくるような気がします。
そういう意味で、ブラジルの女性シンガー タチアナ・パーハとアルメニア人ピアニスト ヴァルダン・オヴセピアンによるデュオの2作目"Hand in Hand"は非常に深い作品だと言えると思います。
シンプルに、パーハの声とオヴセピアンのピアノのみで構成されたこの作品は、一聴すれば非常に美しい歌ものの作品に聴こえることと思います。
確かに、声とピアノの織りなす美しいハーモニーを押し出す瞬間もあるにはありますが、本作の多くで聴かれるのは歯切れよく、難しいパッセージも難なく歌い切るパーハのスキャットと、左右の手を自由に用いてまるで別の人間が弾いているかのようにポリリズミックに螺旋を描くオヴセピアンのピアノとが絡みあい、幾何学的とか、あるいはグロテスクとか表現したくなる異様な空気を感じさせる瞬間です。
オヴセピアンは、リズム面でももちろんですが、ハーモニー面でも非常に複雑なことをやっており(楽理的な部分はリズム以上に分かりませんが、感覚的にも十分分かると思います)、同郷のティグランも思わせるダークなリハーモナイズや明らかに無調/不協和なフレーズを盛り込んだりと、旋律や和声だけとれば下手をすると難解で、聴き手に緊張感を強いりそうな部分も散見できるのですが、そこにリズム面でのアプローチも加えてグルーヴ/うねりを作り出しているせいか、実際には聴いていて疲れるようなシーンは微塵もありません。
これらの要素は、オリジナル曲もそうですが、何よりも2曲目(ミルトン・ナシメント作曲)や4曲目(ティアゴ・コスタ作曲)、5曲目(シコ・ブアルキ)、6曲目(キコ・ブランダン)、10曲目(トム・ジョビン/シコ・ブアルキ作曲)などのカヴァー曲においてより強く現れている様に思えます。(6曲目はわりと原曲に忠実な気もしますが)
ヴォーカルとピアノというシンプルな編成により元々のメロディの美しさを一層強調するとともに、そこにパーハ/オヴセピアンの新たな解釈が加わって非常に瑞々しく生まれ変わっています。
冒頭でも述べたように、非常に複雑な部分の多く見られる作品ではありますが、それを演奏/歌唱する2人の絶妙のコンビネーションによりそういった要素は注意して聴かねば意識されず、非常に美しい歌の作品として聴くことができると思います。
そうなっているのも、彼ら2人の演奏/歌唱することの楽しさや悦びが作品そのものに宿っているから、ということなのでしょう。
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