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Andy Stott "Too Many Voices"

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Artist: Andy Stott
Album: "Too Many Voices"
Label: Modern Love
Year: 2016

Tracklist
01. Waiting for You (2:41)
02. Butterflies (4:23)
03. New Romantic (5:39)
04. First Night (5:44)
05. Forgotten (5:47)
06. Selfish (4:34)
07. On My Mind (6:16)
08. Over (5:03)
09. Too Many Voices (6:07)


UKにおいて今やベース・ミュージックは、かつてのUSにおけるブルーズのような側面を持ち始めているのではないでしょうか。

マンチェスター出身の電子音楽プロデューサー アンディ・ストットの新作の報とともに公開された'Butterflies'は、私達に新鮮な驚きを与えてくれました。
個人的に2010年代上半期のベストにも挙げさせていただいた"Luxury Problems"でも導入されていた「声」がより明確に「歌声」として用いられているのももちろんですが、何よりスッキリと音の粒が整理され、今までドロドロになるまで融解した爆音ベースが埋め尽くしていた空間がはっきりと認識できる、要はR&B的な方向に随分と振ってきたのがその大きな要因ではないかと思います。
個人的に、もっと前衛的で攻撃的でダークで、それでいてアンビエンスを孕んだ作風で攻めてくるものと思っていましたので、これにはかなり驚きました。

しかしながら、実際にリリースされたアルバムを聴いてみて思うのは、本作がUKにおけるベース・ミュージックの一つの側面に強くフォーカスした、そういう点で正に「UKのベース・ミュージック」と言える作品であるということです。
ベース・ミュージック、という曖昧な言い方を避けるならば、「ダブ」と言い換えてもいいと思いますが、それがどのような側面かと言いますと、まさにUK都市の閉塞感や虚無感を写しとった、音楽ジャンルではなく、シンプルに生きることに根ざした哀歌としての「ブルーズ」的な側面です。

今まで当blogでは、Burialの1stジェイムス・ブレイクの1stに潜むブルーズ性/要素について折にふれて言及してまいりましたが、それと同じものがストットの新作"Too Many Voices"からは感じられるように思えます。

本作では先に述べたように、また、タイトルが示しているように「声」が強くフィーチュアされています。
'Butterflies'のように明確な歌声として使われる場合もあれば、ピッチ操作を受けている場合もありますし、声として認識できるギリギリまで潰し、溶かされている場合も、また、バラバラに分解されてチョップ的にリズムの構成要素として使われている場合もありますが、それらは常に「人の体温」を感じさせます。

そしてその声には、今までの彼からすると随分とスッキリ整頓された音が組み合わせられています。
各音の輪郭が幾分はっきりとしており、ビート一つとっても「構築している」印象が強く感じられますし、80~90年代的な時代性を高音部に漂わせる電子音などは分かりやすくメロウなラインを辿ることも少なくありません。
そして、それらの音は空間を埋め尽くすことは決してなく、常に虚無的な「空間」や「空白」の存在をアピールしています。

さらに、それらの一つ一つは、ダブを根源とするセンスでもって変調をかけられています。
時にインダストリーに、時にメタリックに、あるいはキラキラと瞬くように空間の中で反響し、残響を漂わせるサウンドは、聴く者にどこか都会的な空虚さを感じさせることでしょう。
そしてそこでは、タイトル通り「あまりに多くの声」が重なり、浮かんでは消えていきます。
それらの声は聴く者自身に語りかけられているのではなく、ズタズタにされたり、融かされたりして、聴く者とはどこか関係のない空気を漂わせています。

まるで都会の喧騒のまっただ中で孤独に佇んでいるかのような印象を覚えますが、この点についてはジェイムス・ブレイクの1stが好対照として捉えられるでしょう。
あの作品においてブレイク自身の歌声は、オートチューンによってねじれながらも、アルバムに一貫した「主観的な感情」を付与し、聴く者が自己を投影するための指針を示していたと言えます。
対して今作は果たして何人にヴォイスを提供してもらったのかは判然としないものの、様々な操作で以ってそれぞれの声の同一性が瓦解してしまっており、聴く者はそのどれにも感情移入することができません。
まるで、都会の喧騒と虚無を延々と見せ続けられているような気分にさせられるのです。

しかし、これこそがUK都市に生きる者達が日々感じていることなのではないでしょうか。
自分が顧慮されない辛さ、それが打破できない閉塞感、そしてそれが自分だけの責任ではない、ある意味「押し付けられた」ようにすら感じられる不条理感。
ベース・ミュージックを始めとするクラブ・ミュージックはインスタントな気紛れを提供してはくれるものの、それらを真に解決してはくれません。

しかし、ストットは、というよりむしろUKの電子音楽家達は、そういった現状そのものをベース・ミュージックに持ち込み、表現することで、都市部に暮らす者達の(共同体の中で通用する互いの慰みとしての)ブルーズを創りあげようとしているように思えます。
それは、明確な意図でもってなされているものではなく、一部のミュージシャン達が漠然とそういう作品作りを志向しているだけのことなのでしょうが、それらが徐々に徐々に強まってきていることを、本作は示しているのかもしれません。

我々は、それが自分に常には向いていないとしても、「声」と折り合いをつけながら生きていくしかないのです。
本作において虚無を表現するための装置の一つである「声」すなわち「他者」と生きていくしかないという諦念=ブルーズこそが、ストットの表現したかったことなのではないでしょうか。

「あまりに多くの声」は、最終曲において、まるでゴスペルのような神聖な空気を作り出します。
「声達」は、受け入れてみれば案外我々に優しい…のかもしれません。


'Butterflies'


'Too Many Voices'
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