Kassel Jaeger, Stephan Mathieu & Akira Rabelais "Zauberberg"

Artist: Kassel Jaeger, Stephan Mathieu & Akira Rabelais
Album: "Zauberberg"
Label: Shelter Press
Year: 2016
Tracklist
01. Zauberberg (Part 1) (27:30)
02. Zauberberg (Part 2) (22:00)
フランス出身のカセル・イェーガー、ドイツ出身のステファン・マシュー、そしてUS出身のアキラ・ラブレーという3者による共作が仏Shelter Pressから発表されました。
"Zauberberg"と題された本作は、タイトルのとおりトーマス・マンの名作小説『魔の山』(Der Zauberberg)から着想を得た作品とのことです。
私自身普段あまり本(特に小説)を読む方ではないのですが、今作がかなり素晴らしかったのと、また独特の雰囲気に惹かれるものがあり現在読み進めているところです。
小説のあらすじというか、内容についてざっくり触れておきますと、第一次世界大戦前の時代が舞台で、主人公のハンス・カストルプが学校卒業後の就職を目前に控えた時期に、従兄弟に会うために(病気がちな自身の静養も兼ねて)訪れたアルプスのサナトリウム(結核患者の療養所)で様々な、そして奇妙な人々に出会い、その思想などに触れて成長していく、というのがあらすじのようです。
実際に読んでいただければ分かると思うのですが、社会から離れた高い山々で、ある種のモラトリアムに塗れながら静養する結核患者達という一種異様な人々の生活と、彼らの心の動き(?)を描くことで生まれる、緊張感を伴った静けさや孤独感が、霞がかったような心地よさと思索的な雰囲気を感じさせてくれる作品になっています。
そしてまた本作も、その空気を存分に反映した、現実からどこか隔絶したような雰囲気を持った作品と言えます。
二部に分けられた実質50分弱の長大な楽曲は、美しいオペラの歌声から始まります。
おそらく古いクラシックレコードからのサンプルかと思われますが、その歌声はレコードの針の音や薄いノイズが被せられたりしながら融解し、徐々にざわざわとしたドローンと化していきます。
しばらくしてドローンが収束すると、今度はやはりクラシックレコードからのサンプルと思しきストリングスがプロセッシングされて溶け出したような音響が漂い始めるのです。
クラシックレコードからのサンプル、(おそらく3人のいずれかによる)ピアノ演奏、ドローン、鳥の声などのフィールドレコーディングがPC上でシームレスに繋がれながら融け合う様はまるで夢のようであり、そしてそうであるからこそ本作を聴く者の現実感、あるいは現実社会とのリンク/接点を危うい/希薄なものにしてしまいます。
マスタリングはラシャッド・ベッカーによりDubplate & Masteringにて行われていますが、それぞれのサウンドの狙う所を十分に理解したマスタリングで、サンプルや音響は微睡むようにドリーミーに、フィールドレコーディングなどはまるでそこに高山の風景が広がるかのように鮮明に聴こえてきます。
椅子にもたれて目を閉じて聴いていると、なんだか自分もサナトリウムで安静療養に入っているかのような錯覚を覚えることは間違いありません。
原作小説の雰囲気を写しとったかのような作品ですが、様々なパートが入れ替わり立ち代り現れてくる様には、なんとなく物語性を感じ、ちょっぴりThe Moody Bluesの"Days of Future Passed"を思い出したりもしました。
そう思ってみると、単なる音響作品というよりは、どこかプログレやサイケデリックにも通底するようなところはあるような、「歌心」みたいなものを感じる…かもしれません。
最近は本作を聴きながら原作を読み進めるのが、なんとなく豊かな時間の使い方ができているような気がして気に入っています。
本読むの苦手なのでちょっとずつですけど(笑)
Kassel Jaeger / Stephan Mathieu / Akira Rabelais ‘Zauberberg’ (SP068) from Shelter Press on Vimeo.
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