Yves De Mey "Drawn with Shadow Pens"

Artist: Yves De Mey
Album: "Drawn with Shadow Pens"
Label: Spectrum Spools
Year: 2016
Tracklist
01. Prelament (7:44)
02. Adamance (6:03)
03. Remains Of Rays (5:24)
04. Ostia (8:17)
05. Xylo (4:19)
06. Yearned (6:27)
07. Stabbings In Fluid (8:48)
08. Moinen (6:22)
09. Single Patch End (3:51)
ベルギーはアントワープを拠点として活動するシンセ奏者であり音響彫刻家(sound-sculptor)イヴ・ドゥ・メイの新作がeditions Mego傘下のSpectrum Spoolsより先月発表されました。
2009年に12K傘下のLINEより発表した"Lichtung"から久々のアルバムリリースのようです。
eMegoの解説には、本作が「ワンテイクのモノラル録音」であるということが述べられています。
近年モジュラーシンセなどによる即興演奏が一つの様式となってきたような印象があります。
決定的なものとしては13年のThomas Ankersmit "Figueroa Terrace"が記憶に新しいところではありますし、即興ではありませんがここ数年The Sea and Cakeのサム・プレコップまでもモジュラーシンセを使った作品を発表しており(未聴)、つまみを弄くること=シンセサイズそのものが「演奏行為」として認知され始めている、と感じている方も多いのではないかと思います。
そしてドゥ・メイによる本作も、演奏に使われたシンセサイザーがいわゆるモジュラーシンセかどうかは不明ですが、演奏行為としてのシンセサイズ、その肉体性や即興性が存分に表出した力作です。
「影のペンによる描画」と題された本作ですが、私自身が本作を聴いてむしろ感じたのは彼の通名にも通じる、彫刻を彫っているかのような印象でした。
本作に収録された楽曲の多くは、ジリジリと歪むドローンや簡素なクリックといった音を通奏低音としながら、そこにノイズやグリッチ、ひきつるような音響などの様々な音=演奏を加え、それらの要素をじっくりと吟味しながら前景化/後景化させることで制作されたのだと考えられます。
通奏低音にせよ、その上にのる様々な音にせよ、響き的にはかなりマシニックかつメタリックで、パッと聴いた印象ではThrobbing Gristleを始めとするオリジナル・インダストリアルを想起する人も多いのではないでしょうか。
しかしながら、今作にはオリジナル・インダストリアル勢にも通底するダークでゴシカル、あるいは呪術的な音の質感はありますが、彼らが強調していたような観念的な雰囲気は全く感じられません。
本作を聴いて思い浮かべるのは、即興的な音の抜き差し/パワープレイを適度な緊張感を持って、あるいは楽しみながらシンセサイズするドゥ・メイの姿であり、自身の楽器とそこから生まれてくる音と真摯に向き合う演奏家としての彼のストイックな姿勢です。
そしてそれは、ミニマル・テクノ界のボス モーリッツ・フォン・オズワルドが09年以降、ユニットを率いてシンセサイズや電子音によるインタープレイを追求しているのにも通じるように思います。
そうとすれば、こちらはソロ演奏ということになりますね。
シンセサイズが演奏行為として捉えられること、そして、シンセ奏者がそういう意識を持ってシンセサイズを行うことで、そこに一種のグルーヴというか息遣いのようなものが付与されているのではないかと感じます。
MvOTでは三者のインタープレイに隠れてやや後景化していたその要素が、トーマス・アンカーシュミットの13年作や、ドゥ・メイの今作には強く前景化しているのは間違いありません。
私が本作を聴いて彫刻を彫っているかのように思えた、というのもそういった息遣い=肉体性をこの「演奏」の中に感じたからではないかと思います。
演奏としてのシンセサイズは、まだまだ多くの、そして大きな可能性を秘めているのかもしれません。
そしてそれは、これから徐々に明らかになっていくことでしょう。
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