Tortoise "The Catastrophist"

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Artist: Tortoise
Album: "The Catastrophist"
Label: Thrill Jockey
Year: 2016

Tracklist
01. The Catastrophist (3:53)
02. Ox Duke (4:49)
03. Rock On (3:13)
04. Gopher Island (1:13)
05. Shake Hands With Danger (4:11)
06. The Clearing Fills (4:23)
07. Gesceap (7:37)
08. Hot Coffee (3:54)
09. Yonder Blue (3:19)
10. Tesseract (3:55)
11. At Odds With Logic (3:20)


シカゴ音響派/ポスト・ロックの重鎮バンドTortoiseが7年ぶりに発表した新作は、とてつもなく風通しの良い傑作であり、それと同時に彼らの20年を超える活動における「結論」であるとは言えないでしょうか。

ポスト・ロックと言われる音楽が、ロックに新たに提示した価値観というのは、要は構造の生み出す「意味性」を表現の核とすることではなく、むしろポストプロダクションによる構造の解体や音のテクスチュアの強調により特定のモード/雰囲気を表現するものである、というようなことを昨年Talk Talkの2作に関するレビューで述べさせていただきました。
それまでのロックが持っていたダイナミズムに真っ向から対立するオルタナティヴな姿勢と、それでいて全く相手にしないようなクールさは、当時の聴衆や、彼らの活躍を目の当たりにした同業者達には非常に新しく、魅力的なものに映ったものと思います。

しかし、それらはあくまで本流の「ロック」に対するオルタナティヴな存在であるべきであった、そうであるからこそ価値があった、というのもまた事実であると思うのです。
事実、このような価値観がポップス/ロックの世界に浸透していく過程では雨後の筍のように彼らのフォロワーのようなバンドが出現し、「自分達はそれまでのロックと違うものをやっているんだ」というようなしたり顔で、その実イージーリスニングなテクスチュアや雰囲気を垂れ流すだけ、という状況が生まれてしまったように感じます。

そもそも、Tortoiseにせよ、同郷(あるいはルイヴィル)の様々なバンドにせよ、大本の一つにあるのはSquirrel BaitBastroSlintなどを始めとしたハードコア/ポストハードコアシーンにおける、「ロック的なダイナミズム」を極端化(あるいは追求)してきた経緯です。
また、別のキーパーソンであるジム・オルークに至ってはそもそもアカデミックな知識をしっかりと持ち、ロックだけでなく「現代の音楽」についての問題意識を強く持っていた、という前歴があります。
そのような経緯があったからこそ生まれたオルタナティヴな方法論であったはずなのに、ただそのサウンドが好きだからという安易な理由で多くのバンド/ミュージシャンが表層だけをすくい取っていく様は、オリジネイターであるTortoiseの面々からすれば苦々しい部分があったのではないでしょうか。

そう考えてみると、初期の到達点とも言える名作"TNT"以後の彼らのアルバムは、自身が作り上げたイメージ(の安易な真似事)との戦いであったと言えるのかもしれません。
そこには、"Standards"での、ライヴ感の追求や、"It's All Around You"でのヴォイスの導入など、大小はあれ"TNT"までに自身が作り上げたイメージを否定していくような側面があったと感じます。
極めつけは前作"Beacons of Ancestorship"で自身のサウンドを特徴付けていたヴィブラフォンやマリンバをあえて封印し、ロックするギターリフや、ひきつるシンセリフ、3人のドラマーによる人力ブレイクビーツなどを押し出したことでしょう。
これには流石に一部ファンからの反対もあったように記憶していますが、ライヴの空気を上手く反映した作風は、「Tortoiseというブランドイメージ」に反してはいましたが、決して酷評されるような内容ではなかったと思います。

そして、そこから彼らのアルバム発表は途絶えます。
今まである程度コンスタントに("It's..."から"Beacons..."の間の5年が最長)作品を発表してきた彼らを追いかけてきたファンからすれば、この七年は実に長かったのではないでしょうか。

しかし、その間も彼らはツアー/ライヴを続けながら自身の音楽を追い求めてきました。
今作にはその経験が反映されたのか、"TNT"までのポスト・ロック然とした雰囲気を保ちながらも、非常に構築感のある、練られた楽曲ばかりが収録されています。
要するに、"Standards"以降のような試行錯誤感はなく、芯や土台がしっかりとした上での安定感が、本作からは強く感じられるのです。

本作では、美しいメロディ、人力ブレイクビーツ、ミニマルな楽曲構造、流麗なギター、揺蕩うシンセサイザーとベース、ダブ処理など、彼らがそれまでのキャリアを通して披露してきた様々なサウンドスタイルが複雑に、かつ多層的に重なりあいながら、そこにはバンドの力強い演奏風景を想起させるような肉体性が宿っています。
更にそこにはデイヴィッド・エセックスのファンキーなカヴァー(03)やアンビエント的な楽曲に注入された歌声(09)のような、新規の要素もさり気なく盛り込まれています。
それらの一つ一つから、彼らが自分達の音楽を存分に楽しんでいることが感じられるのですから、彼らのファンの1人としてこんなに嬉しいことはありません。

今までの作品のようなサウンド面での衝撃は少ないでしょうし、一聴した感じではあっさりとした地味な作品に感じるかもしれません。
しかし、豊かなテクスチュアと無駄のないアンサンブルを両立させた、ミュージシャンシップに溢れたこの作品で、Tortoiseは「メインストリームのロック」とオルタナティヴな「ポストロック」とを止揚して、より高次元に至ったと言えるのではないでしょうか。
セルフタイトルの1stから22年もの年月を経てついに生まれた本作を、私は彼らのキャリアの中でも最高傑作だと断言します。


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