Captain Beefheart & The Magic Band "Unconditionally Guaranteed"

Artist: Captain Beefheart & The Magic Band
Album: "Unconditionally Guaranteed"
Label: Mercury
Year: 1974
Tracklist
01. Upon the My-O-My (2:43)
02. Sugar Bowl (2:13)
03. New Electric Ride (3:02)
04. Magic Be (2:55)
05. Happy Love Song (3:54)
06. Full Moon, Hot Sun (2:19)
07. I Got Love on My Mind (3:08)
08. This Is the Day (4:51)
09. Lazy Music (2:49)
10. Peaches (3:20)
浮き沈みの激しいキャプテン・ビーフハートの音楽人生の中でも、1973~74年の2年間は特に厳しい時期だったようです。
69年の"Trout Mask Replica"こそ、ロック界にまるで爪あとのようなトラウマを残しましたが、それ以降の数作について言えば正当な評価を得たとは到底言いがたい状況だったようです。("Trout..."の次作"Lick My Decals off, Baby"はUKで彼最大のヒット作となりますが、それはどちらかというと"Trout..."の余波的なものだと言えるでしょう)
当然経済的な成功にも恵まれず、バンドは一時親からの仕送りと国の食料補助(フードスタンプ)でなんとか食いつなぐ、という苦境に立たされます。
元来芸術家気質で気分屋な隊長は、どうもその辺りで随分とやる気を削がれてしまったと思われますが、そんな状況で制作されたのが今回紹介する"Unconditionally Guaranteed"および次作の"Bluejeans & Moonbeams"でした。
本作は、隊長の以前の作品に比べると格段にストレートで、ポップで、無害な作風です。
唯一、1曲目の'Upon the My-O-My'のみ、神経質なギターのカッティングが印象的な摩訶不思議なポップソングとなっておりますが、全体的に見れば、分かりやすいフレーズやメロディアスなシンセ/ブラスなどの導入によりとてもゆったりとした雰囲気を持っています。
(隊長の声が聴こえなければどこかのサザンロックバンドのアルバムだと勘違いしてしまいそうなほどです。)
本作と次作は当然のごとく「あまりに売れ線狙いだ」という批判を受け評価されませんでした。(実際とにかく売れたかった、という部分はあるみたいですが)
本気を出したら前衛的で受け入れてもらえず、売れ線を狙ったらそれはそれで批判される、というのはあまりに可愛そうな気もしますが…
でも、正直なところ私自身過去作の(売り上げ的な意味での)失敗があったからこそ、こんなにオーソドックスな作品を隊長が残してくれたと思いたい部分があります。
確かにここで聴かれる楽曲は隊長の他の作品のようなトンガッた質感はないかもしれません。
しかし、その反面非常に滋味深く心に沁み渡る、隊長なりの「歌心」が全編に渡って充満しているのです。
それが最もよく現れているのは8曲目に収録された'This is the Day'でしょう。
本作の中でも最もストレートと言えるロックバラードに仕上がったこの楽曲では、あの隊長が哀愁たっぷりに愛について歌っています。
どこまでも深く、優しいその歌声を聴けば、この曲だけでもこの作品に十二分の価値が有るということが分かるでしょう。
長いロック史を見渡してみても、これを超えるロックバラードはそうありませんし、私自身ロック最大の名曲の一つと言ってもいいくらいに素晴らしいものだと思っています。
このアルバムは「ミュージシャン・ビーフハート」の駄作でなく、「一人のシンガー」として、あるいは「一人の人間」としての隊長の心に触れることのできる、美しい名作なのです。
本日(12/17)は隊長の命日です。
ぜひともこの曲を、そしてこのアルバムを聴いて、ドン・ヴァン・ヴリートという個人に想いを馳せていただければと願います。
隊長、どうか安らかに。
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