Talk Talk "Spirit of Eden", "Laughing Stock"

spirtofeden.jpg

Artist: Talk Talk
Album: "Spirit of Eden"
Label: Parlophone/EMI
Year: 1988

Tracklist
01. The Rainbow (8:02)
02. Eden (7:39)
03. Desire (6:53)
04. Inheritance (5:10)
05. I Believe in You (5:59)
06. Wealth (6:28)


laughingstock.jpg

Artist: Talk Talk
Album: "Laughing Stock"
Label: Polydor/Verve
Year: 1991

Tracklist
01. Myrrhman (5:22)
02. Ascension Day (6:00)
03. After the Flood (9:39)
04. Taphead (7:39)
05. New Grass (9:40)
06. Runeii (4:58)


一体「ポスト・ロック」とは何だったのか。
多くの評論家/リスナーがこのジャンル名で呼ばれる音楽について、様々な言葉でもって論じ、定義づけようと試みてきましたが、その名が一般に強く認知されてから20年が経過する現在においても、それらの音楽を語る有効な言葉は見つかっていないように思います。

ロックの「後(post)」という言葉から、ロックの枠組みに収まりそうで収まらない、「脱ロック」的な音楽である、という部分を起点として論が立てられることが多いかとは思いますが、そもそも「ロック」というジャンル自体が他の様々なジャンルと、多様な関係を結びながら発展してきた経緯がありますので、まずは「ロック」というものがなんであるのか、という部分について何らかの答えを持たぬままでは論が行き詰まりを見せることになってしまいます。

「ポスト・ロック」について定義する前に「ロック」の定義から始めないといけない、というのはなかなかに困難な問題ですが、流動的な発展を見せてきたポピュラー音楽界随一の怪物ジャンルについて、ここは逆説的に「ポスト・ロック」から類推してみることにしましょう。
そのサンプルとして最も適当といえるバンド/作品とは何か、ということを考えると、ロンドンのポップ/ロック・ユニットTalk Talkが1988年と1991年に発表した"Spirit of Eden""Laughing Stock"が適切なのではないでしょうか。

ポスト・ロック愛好家ならご存知でしょうが、Talk Talkの後期2作品は、今日ではポスト・ロックの最初期、あるいは原型とみなされています。
つまり、ここに現れている音はそれまでのロックと比して圧倒的な違いがあった、と認められるということです。ポスト・ロックからロックを考える、あるいはロックとポスト・ロックを区切る境目/違いを探る際に、これほど適した作品はないでしょう。

これらの2作品について、まずもって言われるのは「ジャズやクラシックからの影響がある」ということです。
フロントマンのマーク・ホリスはTalk Talkの活動初期からマイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーン、バルトークやドビュッシーの音楽について言及していた(cited)という記述がwikipediaの"Spirit of Eden"の項に見られますが、確かに、今作ではそれらの音楽からの影響が強く見られます。

それがどの部分に現れているかというと、両アルバムを全体的に覆う「抽象的な雰囲気」ではないかと思います。
バンドのメンバー(Baのポール・ウェブは"Laughing Stock"前にバンドを脱退していますが)以外に数多くのセッション・ミュージシャンを起用し、即興演奏から楽曲を構築したためか、どちらに収められた楽曲にも、明確な展開というか、予め取り決められたような予定調和は見当たりません。
彼らは、繊細なアコースティック・ギターを始めとして、瞑想的なシンセや引きつるような管楽器など、様々な楽器を用いながら楽曲を形作っています。

ゆったりと進んでいく静謐な空気を、突如としてディストーション・ギターの唸り声が引き裂くような瞬間も散見できますが、基本的にはあまり多くの音は重ねず、ミニマルに、最小限の要素で楽曲を醸成していくような感覚があり、ホリスが言及したマイルス(特に"In a Silent Way"あたり)にも似たモーダルなアンビエンスを感じます。
コード進行がないわけではないのですが、そういった部分があまり意識されないというか、あまり重要視されていないような感じです。
前述の「静と動の対比」的な部分も、コード進行(展開)による要請というよりは、単純に音量バランスの操作による音響的な差異が生み出すダイナミズムを重視したようなところがあり、そのあたりも従来のロックとは違うように思いますね。

楽曲も、短いもので5分弱から、長いものでは9分と、それまでのロックに比べるとずいぶん長いです。
明確なコード進行が重要視されていないためか、明快な終結感もなく、流しながら聴いているといつの間にかアルバムが終わっている、なんてこともあります。

両アルバムにおける音楽は、ホリス(あるいはバンド)のメッセージや思想などを表現するためのものではなく、もっと曖昧なものを表現しようとして作られているように思えます。いや、もしかしたら彼らはモーダルでアトモスフェリックな「空気」を形作りたいだけで、そこから何を受け取るか、感じるかは「聴き手」に委ねられている、と言えるのかもしれません。
もちろん、歌詞はありますので、メッセージ性がゼロということではないですが、基本的には自分を取り巻く状況や情景への言及に終始しており、ホリスの「自分はこう思う」というようなメッセージは打ち出されていません。
明確なテーマを掲げ、明快なコード進行/展開や強烈なメッセージでもって楽曲をまさに「構築」した従来のロックとはそこが決定的に違うのです。
自身の音楽に、自らイメージやテーマを投影し、限局することを嫌った所作こそが、「脱ロック」と一聴して我々が感じる原因なのではないでしょうか。

そしてこの志向は彼らの後継バンドとも言えるBark PsychosisHoodなどのローファイ/インディーバンドや、同時期のシューゲイザー・ムーブメントと共鳴しながら海を渡り、アメリカにて決定的な発展を見せるのですが、そのあたりはまた次の機会に考えたいと思います。


'I Believe in You'("Spirit of Eden"より)



'After the Flood'("Laughing Stock"より)




Spirit of EdenSpirit of Eden
(2012/04/02)
Talk Talk

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Laughing StockLaughing Stock
(1991/11/19)
Talk Talk

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No title

どもども。youtubeのを視聴してみましたが、穏やかな中にもサイケデリックな感覚がありますね。正直、ポストロックにはあんまりいい印象が無かったのですが、これはよさそうですね。

Re: No title

>> ありたん さん

デビュー当初はニューロマンティックなシンセポップユニットだったようですが、
なぜこんな音楽になったのか、ということが気になりますね。

多分時期的にはいわゆる「ネオサイケ」と呼ばれたバンドたちもいたはずなので、
同時代のUKの音楽シーンについてもう少し調べてみる必要がありそうです。

ポスト・ロックについて言えば、90年代~00年代初頭に、オリジネイターと言える
バンド/ユニットの名作が出揃い、あとはその猿マネみたいな作品が雨後の筍のように出てきた印象です。

ちょうどエレクトロニカとも親和性が高かったためか、そちらと交錯しながら、
単にイージーリスニングなだけの駄作が量産された部分は確実にあると思います。

No title

vuoy様 こんばんは

ポストロックの起源は全く知りませんでしたので
勉強になりました。
てっきりテクノ方面との融合かと思っていたのですが
クラシックやジャズだったのですね。

talk talkはかなりロックな部分が残っているという意味でも
入門用に最適ですね。

少し80年代クリムゾンみたいなところも感じました。



Re: No title

>> GAOHEWGII さん

こんばんは。
自分もまだまだ勉強不足ですが、
今回は自分がこのジャンルを聴いて思うことを言葉にしてみました。 


>てっきりテクノ方面との融合かと思っていたのですが

同時期に(いわゆる)エレクトロニカも注目されましたし、
実際多くのポスト・ロックはこのジャンルと関わりながら
認知されていきました(逆もまた然り)ので、そういう
イメージを持たれるのも当然だと思います。


>少し80年代クリムゾンみたいなところも感じました。

音色などはやはり80年代出のバンドだなぁ、という感じで、
少し硬質な印象がありますね。
この直前の3rd"The Colour of Spring"も良い作品なのですが、
ちょっとカンカンキンキン言ってて聴くのに疲れる感じがあります。
もう少しオーガニックな音色で作り直したら、もっとふくよかな
作品になると思うのですが…


散発的にではありますが、少しづつこのジャンルの考察をしていけたら、と思ってます。
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