坂本慎太郎 "ナマで踊ろう"

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Artist: 坂本慎太郎
Album: "ナマで踊ろう"
Label: zelone records
Year: 2014

Tracklist
01. 未来の子守唄 (2:10)
02. スーパーカルト誕生 (4:08)
03. めちゃくちゃ悪い男 (4:39)
04. ナマで踊ろう (5:40)
05. 義務のように (6:09)
06. もうやめた (4:52)
07. あなたもロボットになれる (4:02)
08. やめられないなぜか (3:38)
09. 好きではないけど懐かしい (4:02)
10. この世はもっと素敵なはず (5:44)
※初回版・通常版ともに上記のインスト盤(Disc 2)が付属


昨日のゆらゆら帝国の最終作に引き続き、本日は坂本慎太郎が今年発表したソロ2ndを紹介したいと思います。

昨日の更新でも申しましたが、ゆらゆら帝国は後期になるにつれ初期のガレージサイケから脱却/逸脱していき、最終的には「全てを宙吊りにする」かのような白昼夢的なサイケデリアに至りました。
その過程として音楽性も単純なロックから変化していき、"空洞です"の時点ではソウル/R&Bを想起させるようなグルーヴィーなサウンドやブラスなどの導入が見られましたが、その時点で最も特徴的に取り入れられていたのはミニマル(反復)的な要素であり、大々的なソウル/R&B化はしていなかったように思います。

それが目立って進行し始めたのはやはり坂本慎太郎のソロ活動においてです。
2011年に発表した1st"幻とのつきあい方"では"空洞です"を更に一歩推し進めたようなソフトロック的なサウンドへと変貌し、昨年のシングル"まともがわからない"を経て、坂本のサウンドは徐々に酩酊的でグルーヴに溢れるベースラインとゆるくファンキーなビートを中心にしたものへと移り変わっていきました。
1stにて自身がベースを弾いた経験からか、楽曲作りにおいて中心となる楽器自体の移り変わりが起こったと思われます。(実際、ソロになってからベースラインからのアレンジという手法をとっていることをインタヴューで述べています)
今作ではさらにラップスティールギターなども導入し、全体的にはハワイアンな、トロピカルなムードも匂わせはじめています。

しかしながら、ゆらゆら帝国時代から順当に(?)深化するサウンドスタイルとは別に、今作での歌/歌詞は今までの坂本の作風とはがらりと変わっています。
端的に言えば、言葉が非常にストレートなのです。

思えば、ゆらゆら帝国時代の坂本の歌詞は、抽象的なもの、あるいはよくわからない、漠然としたモチーフ(「ハラペコのガキ」だとか「夜行性の生き物」だとか)を中心に据えたものが多く、それは"空洞です"にてその音楽性が頂点を迎え、解散してしまうまでの間ずっと進行し、サウンドの変遷と相まって彼の音楽をどうにも「ぼんやり」としたサイケデリックなものに仕立てあげていたと思います。

ところが今作では、もっと直接的というか、深読みの余地もなさそうなほどはっきりした物言いが溢れていることに驚きます。

かつてこの国には 恐ろしい仕組みがあった
君のパパやママが 戦ってそれを壊した

でも思い出して そいつはいるよ
明日起きて 考えてみて

'未来の子守唄' より抜粋


このように、現代の日本社会を指しているかのような言葉が散見できるのです。
ゆるく、ダンサブルな雰囲気を強く漂わせる楽曲と、これら強烈な言葉の対比は、今作において好対照をなしており、坂本自身が語る「人類滅亡後に流れる音楽」という今作のコンセプトを見事に表現し、全体を通して非常に強いディストピア感を生み出しています。
上でリンクしたインタヴューでも、坂本は自身のポリティカルな姿勢について「音楽には反映しないタイプ」だという旨を語っていますので、これは大きな変化だと思います。

ただ、彼はこの言葉選びにより、音楽においてポリティカルな姿勢を打ち出そうという宣言をしたというわけでもないようです。
インタヴューで坂本は次のように語っています。

政治的な発言もしないですし、社会的なメッセージみたいなものも--もちろん普通に生きているんで、ありますけど--それを音楽で表現しようとは思わない。
思わないんですけど、今回は作品をSF的な設定にしたことによって歌詞を--深読みできないぐらいストレートだと思うんですけど--ストレートに言っちゃったほうが、単純に面白い、というのと、あと…意外と生々しくないっていうのを発見して。
僕個人の叫びに聞こえないっていうか。歌詞を単純化することによって、CMのコピーとか標語みたいな感じになる気がしたんですよね。それは強烈だし、なんか面白いなと。
今まで自分がとってきたスタンスと矛盾するとは思わなかったし。


この発言から伺えるのは、強烈な(あるいは、ポリティカル/イデオロジカルな)言葉を選択した背景には、単なる「表明」や「メッセージ性」が志向されているのでなく、むしろ作品全体のサウンドとリリックとの対比の中で言葉に含まれるメッセージそのものをメタ的な視点で見ることを聴き手に提示し、「言葉の力」を反転的に利用する狙いがあるということです。

思想や政治的な態度そのものを強く主張することで、むしろそれは記号的なものと化し、逆に彼本来の想いをぼんやりとさせてしまう。今作のリリックの示すところが誰にでも強く感じられる今の日本でこそ、これらの言葉はより強く記号化し、彼の狙いをよりよく達成しているようにも思えるのです。
歌詞単独で見ればそのスタイルが大きく変わっていながら、それがあえて「今」、「このサウンドと共に」提示されることで彼がバンド時代から志向していた「抽象的な」「全てを宙吊りにするような」感覚が今まで以上に巧みに達成されている、というのは非常に面白く、またミュージシャンではなく「シンガー」としての坂本慎太郎という個性が強く確立されたことを示しています。

そしてその個性は、今作のリリックとコンセプトが持つ「ディストピア感」をサウンドと相まって反転させ、「ユートピア」に変貌させてしまっています。
ネット上のレビューではRadioheadの"KID A"との共通点を見出すようなものが多く見られますが、確かに、あの作品も強烈なディストピア感を孕みながらも美しく、時には狂騒的なとも言える「快楽」をリスナーに提示していました。
さらに私が思い浮かべたのは(これも探せば言っている人結構多そうですが)、Sly & The Family Stone"暴動"です。こちらもやはり閉塞的なミックスや麻薬中毒となったスライ・ストーンの書いた歌詞が醸すディストピア感とは裏腹に、重心低めのファンクビートが生み出す酩酊的な心地よさが全編を覆い、不思議な「ユートピア感」にまで発展していたように思います。

個人的には、彼がソロに入ってからの音楽性を、ゆらゆら帝国との関係からどう捉えるべきか非常に迷うところがあったのですが、今作は文句なしの傑作であり、「シンガー坂本慎太郎」としてバンド時代とはまた別の個性を強く示した作品だと断言できます。
日本の"KID A"、あるいは現代の"暴動"と言ってしまうのは簡単ですが、むしろ、坂本慎太郎というシンガーが今作を生み出したということは、我々日本人がもっと誇ってもいいのではないでしょうか。






ナマで踊ろう(通常盤)ナマで踊ろう(通常盤)
(2014/05/28)
坂本慎太郎

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No title

vuoy様 こんばんは

このアルバム、交流ブログ様で取り上げられていて
気になって購入していたのですが
すっかり忘れて棚の隙間に埋もれてしまっていました。

そのことを今日思い出した次第。
明日、休みだからvuoyさんのレビューを読みながら聴こう!

この方の個性からトロピカルというのは印象に無いのですが、
楽しみになってきました。
リーダー・トラックのへろへろ感はいいですね。

Re: No title

>> GAOHEWGII さん

おはようございます。
やはりラップスティールギターの醸すトロピカル、またはハワイアンな感じは
今作のサウンドのキモだと思います。

リリックは記号化しながらも、その強烈な意味を時折、サウンドの隙間を
かいくぐるように現前させてディストピアを作り出し、次の瞬間には
またサウンドに飲み込まれて記号化し、SF的なユートピアに舞い戻る…

というようなことがアルバム全編通して繰り返されているように感じます。
まさに地獄と極楽、みたいな(笑)

私も購入して半年でやっと凄さが分かりました。
近年稀に見る素晴らしい作品ですね。
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