Kate Bush "The Dreaming"

bushdreaming.jpg


Artist: Kate Bush
Album: "The Dreaming"
Label: EMI
Year: 1982

Tracklist
01. Sat in Your Lap (3:29)
02. There Goes a Tenner (3:24)
03. Pull out the Pin (5:26)
04. Suspended in Gaffa (3:54)
05. Leave it Open (3:20)
06. The Dreaming (4:41)
07. Night of the Swallow (5:22)
08. All the Love (4:29)
09. Houdini (3:48)
10. Get out of My House (5:25)


UKの80年代を代表する女性SSWケイト・ブッシュが82年に発表した4th。
日本ではTV番組『恋のから騒ぎ』のメイン・テーマに選ばれた'Wuthering Heaights'(「嵐が丘」)が有名で、その美しい高音ヴォイスと、夢見心地のサウンドスケープにより、どこか「少女性」が強調された認知のされ方をしているように感じます。(1st"The Kick Inside"日本盤ジャケットもそういった捉え方の結果でしょう)

しかし、彼女は若くしてPink Floydのデイヴ・ギルモアにその才能を見込まれてデビューしたことからも分かる通り、元々自分なりの美学に基いて音楽にアプローチしていくタイプでした。
初期の彼女が志向したのは、端的に言えば「演劇性」です。その歌詞の中に現れる様々なキャラクターを演じることは、元来シャイな性格である彼女がステージに上るうえでとても重要なことだったのだと推測されます。
彼女はパントマイム教室に通ったり、あるいは前衛舞踏家のリンゼイ・ケンプに師事するなどして主にパフォーマンス面での強化を図っていますが、それは徐々に彼女の音楽性の根幹をなすまでに大きくなっていくことになります。

そもそもデビュー当初より、行き過ぎた演劇性がそのヴォーカリゼーションにまで影響を及ぼしていた節はありましたが、それが極限まで膨れ上がったのは、3rd"Never for Ever"でしょう。
作中で彼女は様々なペルソナを演じますが、極限まで達したその演劇性は、あたかも「ケイト・ブッシュ」という一個の人格の代替として、歌詞中のキャラクターが彼女に乗り移ったかのような錯覚を覚えさせます。個の感情を超越して他者になりきる、一種のトランス状態こそが彼女の音楽性のカギとなったのであり、それを実現することができたのは、彼女にヴォーカリストとしての卓越した能力があったからに他なりません。

そして今回紹介する4th"The Dreaming"ではその演劇性のさらなるアップグレードが試みられています。
24トラックのマルチ・トラック・レコーダーを、さらに3台同期することで72トラック(正確にはレコーダー同士の同期に1トラックずつ使うらしいので69トラック?)の多重録音から楽曲を構築するという実験的な試みのうえ、彼女はヴォーカル・パートの録音に半数近くの26トラックをかけたそうです。
出来上がった音は、当時のステレオの限界に挑戦するかのように右から左、左から右へと声や音が飛び回り、あるいはそれまでの音楽作品では考えられなかったような奥行きを持ったサウンドになりました。特に音の深さというか奥行きについては、現在でいうところの「音響系」にも通じるような立体感があり、80年代初頭の作品とは信じられません。

音楽そのものにも大きな変化が見られます。
それまでのトラッドなどからの影響が見られる物憂げなサウンドがやや後退し、トライバルとも言えそうなビートの立った、攻撃的でドライな部分が押し出されているのです。
この変化について、アルバムの製作前にピーター・ガブリエルの3作目にコーラスで参加した経験からであると推測されることが多いようですが、正直2曲だけの、それもコーラスのみの参加で大きな影響を受けるというのもちょっとおかしな話ではないか、と思います。

ゲート・リヴァーブ的な音にしても、そもそもXTCの"Drums & Wires"などの例もありますし、民族的なビートへの着目にしろポスト・パンク/ニューウェーヴが隆盛の真っ直中にある時代ですので、至極自然な動きだったのではないでしょうか。
つまり、それらが先にあったというよりは、このアルバムのコンセプトそのものにそういったサウンドが資する部分が大きかったため、採用したのでは、ということ。

コンセプト、というのは勿論ヴォーカルも含めた多重録音による楽曲制作です。
演劇性を突き詰めるうえで、彼女は様々なキャラクターを一つの楽曲上で混ぜ合わすかのように男声女声(そして奇声 笑)や演奏を織り合わせ、背筋も凍るような説得力をもった音を作り上げました。
このアルバムのコンセプトを体現しているのは冒頭'Sat in Your Lap'とラスト'Get out of My House'の2曲ではないかと思いますが、楽曲の中ではハーモニー的に不均衡というか、不協和に陥りそうな瞬間が散見できます。
もちろん、それは狙ってのことであるわけですが、そういった部分の持つ緊張感を強調する装置として、トライバルなビートが採用されたと考えることができるのではないでしょうか。
ビートが抑え気味の楽曲においてはベースが楽曲を牽引する役割を果たしており、こういった楽曲では多重録音によるハーモニーの追求も存分になされています。特に7曲目や9曲目などは圧巻の一言です。

アルバムを聴いてて思うのは、彼女の創作意欲がこれ以上ない程に高まり、もはや暴走しているということ。
ある種の視野狭窄な状態に陥っていたのではないかと思われますが、その執念は非常に見事な形で結実していると思います。(個人的にはJoan of Arcの"The Gap"にも通底するものを感じます)
当時のメディアには酷評されたようですが、強靭な意思と執念により産み落とされたこの作品こそ彼女の最高傑作と評するに相応しいと思います。個人的には5.1chリミックスで聴いてみたい!






ドリーミングドリーミング
(2014/01/29)
ケイト・ブッシュ

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No title

vuoy様

こんばんは

ケイト・ブッシュは好きで、
後追いではまったのですが
ボックスとvhsビデオを持っていました。
ライブで衣装を着替えて訳のわからない寸劇をする彼女のショーは
とても楽しそうでした。
サードがかなり内省的だったので
本作の、ヒステリックでアヴァンギャルドな作風にはびっくりした覚えがあります。
僕は従来路線である「Night Of The Swallow 」ばかり聞いてしまっていた気がします。

Re: No title

>> GAOHEWGIIさん

3rdは確かにトラッドからの影響が色濃い部分もあり、非常に落ち着いた内容になっていると思います。
思えば、ケイトのヴォーカルはトラッド的な「語り部」系ヴォーカルの極地とも言えるのかもしれません。
この作品ではそれが行き過ぎて突き抜けたというか、「やり過ぎ」な感じが非常に好きなのですよ。
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