Stephan Crump's Rosetta Trio "Thwirl"

Artist: Stephan Crump's Rosetta Trio
Album: "Thwirl"
Label: Sunnyside Communications
Year: 2013
Tracklist
01. Ending (6:06)
02. Reclamation Zone (6:57)
03. He Runs Circles (7:47)
04. Whiteout (4:20)
05. Thwirl (5:09)
06. Still Stolid (6:09)
07. Conversate (talking-wise) (6:31)
08. Flotsam (3:05)
09. Palimpsestic (2:47)
10. Steel Skin and Sky (2:50)
ジャズというジャンルにおいては、他のいかなるジャンルを持ってしても見られぬほどに、演奏者達の自意識やプレイアビリティというものが作品(楽曲/アルバム)を構成します。
特にモダン・ジャズ(≒バップ)以降の、即興演奏を中心とした楽曲の構築方法が一般に浸透したことで、そういった傾向は加速度的に強まりました。
即興演奏において、リーダーの思う意図というのはあくまで指針に過ぎず、それに従って職人的に演奏するか、それとも自身の演奏者としての自負を曝け出し、好きなように演奏するか、というのは常に演奏者本人に委ねられています。
それ故に、ジャズ・バンドは常にそれが「バンド」ではなくただの「演奏者の集まり」に堕してしまう危険性をはらんでいると言えます。明確なコンセプトを設定しなかった場合はなおさらです。
もちろん、メンバーの一人(リーダーでない場合もあるでしょう)が、その強烈なプレイアビリティにより楽曲の方向を抗い難く定め、見事にまとめあげることもあるでしょうが、それは稀有な例でしょう。エゴのぶつかり合いが巧くいくことは、なかなかありません。
ヴィジェイ・アイヤーのピアノ・トリオでベースを担当するステファン・クランプ率いるStephan Crump's Rosetta Trioは、コンセプトを設定しない、「演奏」に重きを置いたトリオとしてはこれ以上ないほど素晴らしい演奏を新作"Thwirl"にて聴かせてくれます。
クランプによるベース、ジェイミー・フォックスによるエレキ・ギター(クリーン・トーン)、リバティ・エルマンによるアコースティック・ギターという一風変わった内容でバンドは構成されます。
クランプによるベースを中心に据えながら、フォックスのエレキとエルマンのアコギをそれぞれ左右にパンし、リスナーを三声の絡まり方やその構造に注視させるようなミックスは、簡素なジャケットと相まって彼らの演奏以外の情報をシャット・アウトします。
そこにあるのはただ3人の演奏の絶妙な絡まりが生み出す快楽だけです。
ゆったりとしたラインをたどりながら、スラップに依る打音をパーカッシヴに挿入するクランプのスタイルは、雰囲気こそ違えどヴィジェイ・アイヤー・トリオの昨年作"Accelerando"で聴かせたいぶし銀な感覚を匂わせますし、クリーン・トーンによるサスティンを聴かせる美しいフォックスのプレイと、アコースティック楽器ならではのノイズも取り込み、随所でファンキーにすら響くエルマンのプレイもそれぞれ特徴的です。
楽曲はどれも主たるテーマすら殆ど設けていない即興中心のものであると思われますが、彼らがバンドとして非常によくまとまっているため、危なっかしい雰囲気は全くありません。
3人が一つの有機体として、常に互いの演奏に最適なレスポンスを返し、演奏を進めていきます。
アイヤーのバンドでは、絶妙なインタープレイをはさみつつも、ドラムスとともにアイヤーのピアノを下から支えている感の強かったクランプではありましたが、バンド・リーダーとして、そしてまた演奏者としての自分を強くアピールする良作をドロップしてくれたと思います。
聴けば聴くほど3者の演奏の妙を味わえそうで、まだまだ楽しみです。
![]() | Thwirl (2013/09/10) Stephan Rosetta Trio Crump's 商品詳細を見る |
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