Jim O'Rourke "Eureka"

Artist: Jim O'Rourke
Album: "Eureka"
Label: Drag City
Year: 1999
Tracklist
01. Prelude to 110 or 220 / Women of the World (8:46)
02. Ghost Ship in a Storm (3:54)
03. Movie on the Way Down (7:37)
04. Through the Night Slowly (4:47)
05. Please Patronize Our Sponsors (3:04)
06. Something Big (3:13)
07. Eureka (9:11)
08. Happy Holydays (1:36)
ジム・オルークとデヴィッド・グラブスという、シカゴ出身の二人のミュージシャンのキャリアは伝説のユニットGastr del Solを交点として交わり、好対照を描きます。
高校の友人達と結成したポスト・ハードコア・バンドSquirrel Baitでキャリアをスタートさせ、BastroやGdSといったメインプロジェクトを進める傍らで"Banana Cabbage, ..."などのエクスペリメンタルなソロ作品を残したグラブスと、アカデミックな音楽教育を受けて種々のエレクトロ・アコースティック作品や、フリー・インプロヴィゼーションに、ドローン、そしてコラージュを始めとする編集技術など、思いつく限りのエクスペリメンタルな音楽作成を経験しながら徐々にアメリカ的な音楽へ回帰していったオルーク。
二人の来歴は、「ポップ・ミュージックからシリアス・ミュージックへ」あるいは「シリアス・ミュージックからポップ・ミュージックへ」と単純に表現すべきではないほどの複雑さ(と深み)を持っているのは理解していますが、それでもある程度端的に言い表すとするならば、このように表現するのが妥当かと思います。
この作品は、ジム・オルークが1999年に発表した作品で、1998年の"Camoufleur"を以ってGastr del Solにおける二人の蜜月が終わりを告げた後の最初のソロ作品です。
アルバムの基調となるのは、オルークの歌声とフォーク・ギター。
"Camoufleur"においてその歌声を初めて披露したオルークでしたが、今作でも半分以上の楽曲でマイクをとり、その思慮深い声を披露しています。
彼はその他にもベースやシンセサイザー、オルガンなどを演奏するとともに、ロブ・マズレクやグレン・コッツェらゲスト達のブラスやドラムス、チェロやヴァイオリンを繊細に重ね、配置して音の広がる余白を十分に創りだすとともに、執拗ともとれるスタジオ・ワークにより楽曲の空間を限定し、密室的な雰囲気も付与しています。
そしてその、どこまでも広がるようでありながら、どこかこじんまりとした、矛盾する感覚を同時に感じさせる楽曲がなぞるのは、ヴァン・ダイク・パークスやブライアン・ウィルソンによるアメリカン・ミュージックのパラノイアックな桃源郷("Song Cycle"や未完の名作"SMiLE")であり、そしてバート・バカラックによる豊潤なポップ・ミュージックです。
アメリカのカントリーやブルーズにおけるギターを、自己の観点からコンテンポラリーな音楽の中へ再配置してみせた前々作"Happy Days"や、そこにアメリカン・ポップ・ミュージックの要素を容赦なくぶち込み、コラージュ化してみせた"Bad Timing"を経た今作にて、彼はアメリカーナの本質を、シンプルな(それゆえに何よりも力強い)形で提示することに成功したのです。
原曲に忠実なはずのカヴァーでありながら、原曲よりも美しく、瑞々しく輝くようなバカラックの'Something Big'などはその好例といえるのではないでしょうか。
さらに、彼はミュージシャンとして、そのアメリカン・ミュージックの歴史の再構築から導かれるネクスト・ステップも提示してみせました。それこそが表題曲の'Eureka'です。
黄昏れるブラス・アンサンブルと、微弱な電子ノイズ/サイン・ウェーヴ、シンセサイザー、そして逆回転などのイコライズ/編集手法が遺憾なく発揮され、コラージュ/ループされるとともにオルークのノスタルジックなヴォーカルラインと並置されていますが、これこそコンテンポラリーなメソッドと古き良きアメリカン・ミュージックとの正しい共存であり、アメリカ音楽の次なる姿と言っても過言ではないでしょう。
"Happy Days"からこの作品までの3作は、彼が故郷アメリカの音楽を改めて捉え直す過程の主要ポイントを見事にドキュメントした作品であることは間違いないと思います。
そして、99年という世紀末に彼はアメリカン・ミュージックを一度殺し、生まれ変わらせたとも言えるのかも知れません。
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