Freddie Hubbard "Sing Me a Song of Songmy"

Artist: Freddie Hubbard
Album: "Sing Me a Song of Songmy"
Label: Warner/Atlantic
Year: 1971
Tracklist
01. Sing Me a Song of Songmy, Part 1 (19:43)
a) Threnody for Sharon Tate (Prelude & Comment)
b) This is Combat, I Know
c) The Crowd
d) What a Good Time for a Kent State
02. Sing Me a Song of Songmy, Part 2 (21:15)
a) Monodrama
b) Black Soldier
c) Interlude I
d) Interlude II
e) And yet, There Could be Love
f) Psotlude
モダン・ジャズという音楽は、どこか政治や思想から一歩引いた場所に自らを置いているように感じます。
それはそもそもの成り立ちとして、チャーリー・パーカーらビ・バップ・スタイルの創始者達が兵役を逃れ、地下クラブで自身の、そして互いの演奏に(恐らくクスリにまみれて)耽溺しながら生み出したものなわけですから、その音楽そのものが持つ雰囲気も自然とそうなってくるというものです。
かといって、政治や思想に関連した作品が皆無かというと、そんなことはありません。
今回紹介するフレディ・ハバードの『ソンミの歌』もその一つです。
アルバム・タイトルとなっている「ソンミ」というのは、ベトナム戦争中アメリカ陸軍により住人のほぼ全員が虐殺された村の名前です。(その数504人。生き残りはわずか3名)
この事件は、当初「ゲリラとの戦闘の結果」という虚偽の報告がなされましたが後にその嘘が暴かれ、アメリカ陸軍が支持を失うきっかけになったとのことです。
そして、ジャズ・トランペッターであるフレディは、この事件を自身の作品上で取り扱う上で様々なものを持ち込みました。
その多くはトルコの現代音楽家イルハン・ミマログルによるものです。
現代音楽的な無調で引きつるような旋律、電子音響、ミュージック・コンクレート、ポエトリー・リーディングなど、60年代の音楽界を騒がせた先鋭的な手法がコレでもかとぶち込まれ、フレディ率いるジャズ・クインテットと平然と併置されています。
それらの要素は、クインテットの演奏への添え物、といった雰囲気では全くなく、むしろクインテットすら『ソンミの歌』という一つの作品を構成する一要素として取り扱われいます。クインテットの出番もそれほど多くあありません。
しかし、ともすれば完全にイルハンの作品となってしまいそうですが、そんなことはなく、むしろフレディ・クインテットの存在感こそがこのアルバムを独特なものとし、ジャズ史どころか音楽史上においても、特異な立ち位置を作品に与えているのではないかと思うのです。
確かにイルハンは、突如挿入される国歌「星条旗よ永遠なれ」や、悲鳴や銃声のような電子音、フレディ本人も含む5人の詩人によるポエトリー・リーディングなどを繋ぎあわせ、とても先鋭的で前衛的な雰囲気を作り出しています。しかしそれと同時に、この手の実験音楽が持つ冗漫さを漂わせてしまっています。
イルハンは響きや音の細部を強調し、ソング・フォームというものを無視する(というか端から念頭にない?)ゆえに、楽曲全体がだらけて締まりのないものとなりかけているように感じます。クインテットによる演奏はそれを食い止めるばかりか、その響きの前衛性と見事に呼応し、40分を超える楽曲を見事に引き締め、イルハンのトラックと相乗効果を生み出し、音のラディカルさをさらに強力にアップデートしているのです。
クインテットの演奏スタイルはフリー・ジャズ気味ではありますが、リズム隊がしっかりとリズム・キープをするので聞きにくさは殆どありません。フレディらのフリーキーな響きを楽しむ余地をリスナーに常に残しています。
政治や思想の入り込んだ音楽というのは、往々にして音楽そのものとしての魅力に欠け、テーマ云々でしか語られないことが多いですが、この作品は単純に音楽作品としても素晴らしいものに仕上がっています。
また、音そのものがあまりに強烈であるからこそ、テーマとしているソンミ村虐殺事件への哀悼や、反戦・平和への想いが非常にストレートに、力強く表れています。
フレディの試みは大成功と言えるでしょう。異端的な作品ではありますが、激しくオススメです。
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