Tim Buckley "Starsailor"

Artist: Tim Buckley
Album: "Starsailor"
Label: Straight Records
Year: 1970
Tracklist
01. Come Here Woman (4:09)
02. I Woke Up (4:02)
03. Monterey (4:30)
04. Moulin Rouge (1:57)
05. Song to the Siren (3:20)
06. Jungle Fire (4:42)
07. Starsailor (4:36)
08. The Healing Festival (3:16)
09. Down by the Borderline (5:22)
コードによる束縛から逃れるため、音楽演奏の根源的なスタイルへと回帰しようとしたフリー・ジャズ。
今までの音楽の発展を根源から否定するようにすら見受けられた、そのラディカルなスタイルは、同胞のジャズ・ミュージシャンだけでなく、他ジャンルの多くのミュージシャンを魅了しました。
例えば、有名なKing Crimsonの、これまた有名な楽曲'21st Century Schizoid Man'のアウトロには明らかに影響が感ぜられますし、Soft Machineもまた"Third"においてフリー・ジャズと現代音楽を飲み込み、混沌とした音像のアヴァン・ロックを成立させました。
そして、初期はプロテストなフォーク・シンガーとして知られたティム・バックリィもまた、そのキャリアの中期にはこういった先鋭的な音楽へとアプローチし、見事な作品を多く残しました。
彼のジャズへのチャレンジ自体は、以前紹介した"Goodbye and Hello"の次作"Happy Sad"の時点ですでに始まっていました。
続く4thアルバム"Blue Afternoon"でもその路線を推し進めますが、5thアルバム"Lorca"において彼は突然その実験精神を爆発させます。
まるで全盛期のマイルスともリンクするような、呪術的なジャズ・フォークを創りだした彼は、音楽だけでなくそのヴォーカル・スタイルも大きく変容させました。
初期のペシミスティックなハイトーン・ヴォイスをかなぐり捨て、地を這うような重低音ヴォイスを使い、それをいつ終わるとも知れないヴィブラートで引き伸ばし、楽曲の呪術性と深く感応することで、彼は大いなる存在と交信しようとするシャーマンのように振舞ったのです。
今作では更にそのヴォーカル・スタイルを変化させます。
ジョン・コルトレーンのサックス演奏に合わせ練習したというそのヴォーカルは、もはや人間の声とは思えません。深い闇そのもののような低音と、怪鳥がいななくような高音とを瞬時に行き来するそのスタイルは彼の今までの歌声の中でも最もアヴァンギャルドなものと言えるでしょう。
楽曲もフリーキーな即興演奏を中心としたものであったり、うねるギターリフが反復する後ろでリズム隊が好き勝手に暴れるものや、電子音響と彼の声によるソロで、もはや宇宙との交信そのものとしか言えないようなものなど、思いつく限りの実験性をぶち込んでごった煮したかのように混沌としています。もちろん、4,5曲目のような滋味あふれる歌を中心に据えたポップ/フォーク・ナンバーもあったりしてそこがまた一筋縄ではいかないところかと思います(笑)
しかしやはり、そのアヴァンギャルドなスタイルには、聴き手の心を揺さぶる何かがあるように感じます。
引きつる楽器の音の中に、深い低音ヴォイスを落としこみ、あるいは電子音響に高音ヴォイスを乗せて飛び回るその姿には前作でも見られたシャーマニズムと、言いようもないメランコリィ(追い詰められた人間特有のものに思えてしまいます)が存在するのです。
鋭く研ぎ澄まされ、冷たい光を放つ楽曲の裏に、彼の悲しみが充満しているかのような、素晴らしい作品だと思います。
![]() | Starsailor (1991/11/05) Tim Buckley 商品詳細を見る |
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