James Blake "Overgrown"

Artist: James Blake
Album: "Overgrown"
Label: Polydor
Year: 2013
Tracklist
01. Overgrown (5:00)
02. I am Sold (4:04)
03. Life around Here (3:37)
04. Take a Fall for Me (3:33)
05. Retrograde (3:43)
06. DLM (2:25)
07. Digital Lion (4:45)
08. Voyeur (4:17)
09. To the Last (4:19)
10. Our Love Comes Back (3:39)
1st"James Blake"は非常にルーキーらしい瑞々しさ、実直さ、そしてバカ正直なところがあった、と今であれば言える気がします。
行き過ぎたダブ処理により、深い沼のように沈み込む感覚を持ち合わせた音響の中で、ヴォコーダーをまるで自身の声を震わせる発声器官として扱いながら、彼は現代の若者のソウルあるいはブルーズを歌いました。
しかし振り返って見るに、楽曲や彼の声が醸し出す虚無性とは裏腹に、そこには実に1stアルバムらしい衝動性と、ある種の拙さが息づいていたのです。
私はずっとそこに引っかかるものを感じていました。
2011年のベストと言うべき作品を発表していながら、後のEP"Enough Thunder"で、彼は明らかにシンガー・ソング・ライターとしての人生を生きようとしているように思えたのです。
もちろん、彼がダブ・ステップ・ミュージシャンというくくりに収まらないことは火を見るよりも明らかではありましたが、しかし彼は逆に「歌うこと」に執着し始めているようにも感じました。
その後発表されたD'Angelo 'Left and Right'のリミックスでそれは杞憂であったと思い知らされたわけですが…
そして、それから2年の時を経て発表された新作"Overgrown"で、彼は1stの評価がまぐれではなかったことを見事に証明しました。
確かに今作は、相変わらず「歌」を全面に押し出した作風になっています。
さらには前作に見られたようなヴォコーダーの使用が全くなく、彼の素の歌声が全編を覆っており、そこには1stに見られたような虚無性は微塵も感じられません。
冒頭'Overgrown'からして、すでに彼の歌には深く感情が込められていることがわかりますし、楽曲としての構築性を高めたトラックも十二分にその「歌」をサポートし、旋律と音響の孕むダークネスとは裏腹に、どこか風通しの良さすら感じさせます。
ダブ・ステップだけでなく、HIPHOPやハウス・ビートなど、様々なジャンルの特徴を繋ぎあわせながらも、彼はその歌声を以ってしてアルバムに一本の芯を通すことに成功しています。
ダブ的な音響の中に埋もれ、無機質で透き通っていながらもどこか混沌としていた前作と比べ、今作は音の一つ一つがくっきりとし、その細かな濃淡を拾うことも苦ではありません。
また、ヴォコーダーによる変調はなくとも、丹念に、繊細に重ねられたヴォーカルからはゴスペルに通じるようなスピリチュアルな感覚が立ち上ってきます。
「歌う」ことに慣れ、自身の声を楽曲の構成要素の一つとして冷静に取り扱いながら、生の声に宿る体温を楽曲に浸透させる術を、彼は学び始めたのでしょう。
EPに私が感じた歌うことへの執着は、恐らく歌うことをどう取り扱うか迷う彼の試行錯誤が招いた誤解であったように思えます。それほどに、今作からは余裕を感じることができる。
名作とまで言えるわけではありませんが、彼のミュージシャンとしての成長が如実に感じられる作品です。これからへの期待が高まります。
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