João Gilberto "O Amor, O Sorriso è a Flor"

Artist: João Gilberto
Album: "O Amor, O Sorriso è a Flor"
Label: Odeon Brazil
Year: 1960
Tracklist
01. Samba De Uma Nota Só (1:35)
02. Doralice (1:25)
03. Só Em Teus Braços (1:46)
04. Trevo De Quatro Folhas (1:21)
05. Se É Tarde, Me Perdoa (1:43)
06. Um Abraço No Bonfá (1:35)
07. Meditação (1:44)
08. O Pato (1:56)
09. Corcovado (1:58)
10. Discussão (1:47)
11. Amor Certinho (1:50)
12. Outra Vez (1:45)
ジョアン・ジルベルトがなぜ「ボサノヴァの法王」とまで呼ばれるのか。
それは、彼がボサノヴァの根幹となるギター奏法「バチーダ」を開発した、まさにボサノヴァの生みの親と言うべき人物であることに起因しています。
バチーダ奏法を彼が開発することとなった理由というのが「サンバ・グルーヴをギター一本で体現すること」なわけですが、彼はこの奏法を発明することで、ブラジリアン・ミュージックを根底の部分から覆した。
それにより、本来の『新たな潮流(bossa nova)』という意味での「ボサノヴァの法王」と呼ばれ得たのではないでしょうか。
そもそも、ブラジルの代表的な音楽であるサンバのベースには、バイーア地方に住まう黒人たちの作り上げたバトゥカーダ(打楽器のみで演奏される音楽)のグルーヴ(バイーア)があります。そこに他のショーロ(「ブラジルのジャズ」などとも呼ばれる、即興重視のインスト音楽)などが交じり合うことによって生まれたとされます。
多数の人間が集まり、パーカッションを打ち鳴らすことで一つの大きなグルーヴを形成、それに合わせ舞い踊るという性質を持つこの音楽は、まず間違いなく「共同体の音楽」であったと言えるでしょう。
歌詞の内容が生活そのものや、政治や人種差別へと及んでいたというのも、テーマが個人の感情よりは世の中(=共同体)のあり方にあったということの証ではないかと思います。
この「共同体の音楽」の転換点としてまず存在するのが1920年前後の、サンバ・カンサゥンの誕生でしょう。この、暗く重い楽想と情念をたぎらせたかのような歌声を特徴とするサンバの亜種は、サンバを「共同体」から切り離し「個人」のレベルに引き戻しました。
しかし、その代償と言ってはなんですが、サンバのグルーヴ的な側面も切り離す必要があったのではないかと推測されます。もちろん、サンバ・グルーヴを大事にしていた人たちもいますが、そのためにはやはり複数打楽器によるリズムの綴織が必要であり、形式としての「共同体の音楽」を切り離すことはできなかったのではないでしょうか。
そこへきて、ジョアンにより発明されたのがバチーダ奏法です。
サンバ・グルーヴ/バイーアを類型化し、極端にデフォルメすることにより、このグルーヴ感覚をギター一本で再現することを可能としたその奏法はまさに革命的であり、また「一人で演奏するサンバ」というそれまでになかった形式を可能にしたのです。
これによりサンバはついに「共同体」から完全に切り離され、「個人の独白」として再構築されるに至った。歌い方もそれにあわせたウィスパー・スタイルが採用されたと思われます。ボサノヴァ第1号'Chega de Saudade'(想いあふれて)を最初に吹き込んだエリゼッチ・カルドーゾの肉感的で色気のある歌声を、ジョアンと作曲家のアントニオ・カルロス・ジョビンはよしとせず、翌年にジョアンのソロ・デビュー作で再録音したことからも、これは間違いないでしょう。
歌詞の内容も、生活や政治のことから恋愛などの叙情的なものへとシフトし、あくまで個人の精神の中で渦巻く感情を表現するものへと変化し、ボサノヴァが成立した、ということなのです。
その革命的な音楽の基本スタイルは間違いなくジョアンの初期3作です。
中でもこの2ndアルバムは『愛と微笑みと花』という邦題通り、艶やかかつ控えめなオーケストレーションに彩られた、あくまでジョアン個人のものであるグルーヴと感情がぼんやりと漂う名作に仕上がっています。
20分という短い作品ではありますが、非常に充実した内容ですし、後にクラシックとなる楽曲も多く収められています。
数年前までは廃盤状態でしたが、今は幸いにも3作全てを容易に入手することが可能ですし、ぜひ今作からジョアン初期の世界観に触れていってもらいたいものです。
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