Gastr del Sol "Upgrade & Afterlife"

Artist: Gastr del Sol
Album: "Upgrade & Afterlife"
Label: Drag City
Year: 1996
Tracklist
01. Our Exquisite Replica of "Eternity" (8:26)
02. Rebecca Sylvester (3:53)
03. The Sea Incertain (6:12)
04. Hello Spiral (10:40)
05. The Relay (5:49)
06. Crappie Tactics (1:48)
07. Dry Bones in the Valley (I Saw the Light Come Shining 'Round and 'Round) (12:28)
デヴィッド・グラブスとジム・オルークによる、シカゴ音響派最重要ユニットGastr del Sol(太陽の胃:競走馬の名前からとったとのこと)の3rdにして最高傑作。
GdSの音楽性の萌芽は、以前にグラブスが組んでいたバンドBastroの後期(だいたい1991年くらい)にまでさかのぼります。
Bastroは、爆音疾走型のポスト・ハードコアから徐々に変拍子やノイズ/ピアノの使用など様子が変化していき、ついに解散直前には完全インストのミニマル・ロックと化していました。(この最後期の様子は2000年代になってから発掘された"Antlers: Live 1991"で聴くことができます)
この時点でグラブスとベースのバンディ・K・ブラウンとのデュオ(ドラマーであったジョン・マッケンタイアはサポートにまわる)という形でミニマル・フォーク・ユニットとしてGdSが始まります。
そして、直後のEP"20 Songs Less"にて第2のキーパーソンであるジム・オルークが加入します。
この辺りからGdSの音楽性は以前にもまして、加速度的に実験的な方向へと進んでいきます。抽象的なノイズやドローンなども交えた即興的な楽曲構成と、残響に意識を向かわせるかのようなミックスなど、この時期の音楽性は、いかに音楽界が広いと言えど、トップクラスに先鋭的な音楽と言えるものであった思います。
この作品ではそれらの要素がよりよく消化/昇華され、もはやこの世の音楽とは思えないものが出来上がってしまいました。
お得意の循環ドローンから映画音楽からのサンプリングへと突如変貌するオルーク主導の1曲目、グラブスのギター&ヴォーカルと隙間を埋める淡い音響/ノイズが徐々に一体となり、天にも昇る心地のコーダへと収束していく2曲目や刺激的なノイズから、徐々に盛り上がるミニマル・フォーク・ロックナンバーが導き出される長尺の4曲目など、実に聴きどころは多いです。
しかし、なによりも特徴的なのは最終曲。アメリカのアブストラクト・ブルーズ系音楽家ジョン・フェイヒィのカヴァーなのですが、これが実に素晴らしい。
恐らくオルークが中心となって演奏されていると思われますが、原曲に比べると随分礼儀正しく、端正なアコースティックギターの爪弾きが醸す、純然たるアメリカーナはあの広い国の懐の深さを如実に語っています。この感覚はアメリカ特有のものであり、根底の部分ではバート・バカラックとすらリンクするように感じます。
そして、後半から始まるミニマル・パート。原曲には存在しなかったパートですが、これも素晴らしい。多少のコード・チェンジを含みながら、ゆったりと音を反復するオルーク、そしてその隙間に水滴で絵を描くようにピアノを落とすグラブスとが、静かな対話のように音を絡めていきます。
さらに、後半で参加するトニー・コンラッドの、幽玄なる純正律ヴァイオリン・ドローンが入ってくるとその美しさはもはや言葉で言い表すことができません。サイケデリックとも、アシッドとも違う、しかし一枚の大きな「壁」を隔てた崇高で神々しい感覚。どこまでも人間味があるようでありながら、同時に正気ではないとすら思わせるその音の響きは、最早他者には超えることはおろかコピーすることすらできません。
本当に、この音楽に出会えて良かったとすら思えます。
「金字塔」という言葉は、多くの作品に使われ、レビューの定型句みたいになっているところがありますが、コレこそまさに「金字塔」と呼ばれるに相応しい風格を持った作品だと思います。
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