PITA "Get In"

Artist: PITA
Album: "Get In"
Label: editions Mego
Year: 2016
Tracklist
01. Fvo (2:45)
02. 20150609 I (2:52)
03. Aahn (7:16)
04. Line Angel (7:33)
05. S200729 (6:14)
06. 9U2016 (4:13)
07. Mfbk (10:10)
かつて大友良英さんはピーター・レーバーグことPITAやMego(eMegoの前身)の音楽について、「電子楽器や即興演奏によるパンク(They were like punk rock, doing punk things with electronic and improved music.)」と評したそうです。
確かに、近代のエレクトロニカ~電子音楽~ノイズにおけるランドマーク/金字塔として名高い名作"Get Out"は、今になって思えば、ひたすらグリッチーな音の奔流に溺れるような衝動的な部分があったように思えます。
とにかくノイズを出すことが、変化させることが楽しく仕方がないといったような、無邪気さや乱暴さがあの作品には充満していましたし、そしてなによりも名曲である3曲目では、この上ないほどエモーショナルな和声推移を唐突にグリッチ・ノイズと変貌させるという、非常にストレートな部分を衒いなく見せていたのです。
しかし、それから17年の歳月が過ぎて彼にも当然変化があったのでしょう。
フルレングス作品としては2004年の"Get Off"以来実に12年ぶりの新作"Get In"において、彼は自身の音楽を客観的な視点から分析しながら構築しているような印象を受けます。
アルバムはディープで美しいドローン/音響作品'Fvo'で幕を開けます。
続く'20150609 I'ではお得意のグリッチサウンドを暴れさせますし、'Aahn'は昨年トーマス・ブリンクマンが発表した"What You Hear (Is What You Hear)"に収録されていてもおかしくないような、ひたすらマシニックに反復しながら蠢くパルス音が印象的なミニマルナンバーです。
'Line Angel'ではキラキラとした美しい音響を聴かせ、'S200729'ではアシッドなベースラインが'Get Out'の3曲目よろしく突如グリッチノイズの海に沈んでいく様が聴取できます。
そして再度グリッチサウンド主体の'9U2016'の後、驚くほど優しい'Mfbk'で今作は幕を閉じます。
このような具合で、7曲という少ない曲数ながら、今までの作品に比べ非常にバラエティ豊かなサウンドが展開されています。
そして、それらは単に単一のテクスチュアを1曲の間聴かせるというものでなく、そこに別のノイズや具体音、音響などを重ねて多層化し、楽曲中で各要素を前景化/後景化させながら聴き手に提示するという、非常に構造的な所作が見て取れるのです。
ブリンクマンに通底する3曲目が分かりやすいですが、執拗に反復するパルス音の向こう側では常に別の音が鳴り続け、更には有機的に変化を見せていることに気がつくでしょう。(最終的には地獄の釜が開くかのような恐ろしい音響と化していきます)
経時的に見ればミニマルなパルス音はもとより、かなりアブストラクトに変化しているバックの音についても何ら構造は見いだせませんが、そうではなく同時的な音の重なりに、最早カラフルと言ってもいいほどの立体感を感じるのです。
ここには、彼が99年以降ソロと並行して行ってきた、KTLやFenn O'Bergを始めとした、他者とのコラボレーションからの経験が反映されているのではないかと想像します。
他者の音と、自分の音との中に関係性を見出しながら楽曲という形にまとめていく作業/方法論は、彼の中により「音楽的」な要素を芽生えさせたのかもしれません。
そして今回彼は意識的に自身の音を客観視し、改めて楽曲を構築しています。
かつて見せていた、音のテクスチュアの変化を嬉々として放出する「ノイズにおけるパンク」という姿勢はここにきて変貌し、どこか醒めた感覚で持って自身の音を解体/再構築する、ポスト・パンク的なモノと化しているような印象を受けます。
その姿勢がもたらした成功は、あの名曲の方法論を援用した'S200729'をぶつ切りで終わらせることなく、霊的なアウトロを追加したうえ、10分を超える音響トラック'Mfbk'に神秘的とすら言える透明さを付与することで証明されていると言えるでしょう。
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