Giuseppe Ielasi "Inventing Masks"

Artist: Giuseppe Ielasi
Album: "Inventing Masks"
Label: Error Broadcast
Year: 2016
Tracklist
01. 3'34" (3:34)
02. 4'22" (4:22)
03. 4'32" (4:32)
04. 4'18" (4:18)
05. 6'48" (6:48)
06. 3'33" (3:33)
イタリアのミュージシャン ジュゼッペ・イエラシがError Broadcastから発表した新作は、実験音楽とHIPHOPとの境界を行戻りする、なんとも刺激的な作品になりました。
かねてより12Kなどからも作品を発表していましたが、私自身は今作で初めて彼の音楽に触れまして、その中毒性にしびれっぱなしです。
そもそも彼の音楽には独特のループ感覚があるという定評がありました。
実験音楽におけるミニマルという手法は、音のテクスチュアを強調するために楽曲構造を平坦化するような意図が感じられることが多いのですが、今作を聴けば彼にはそれに留まらないミュージシャンシップがあるということは明白だと思います。
いずれの楽曲も具体音やビープ音、ストリングス、電子音、鍵盤楽器の音など、かなり雑多な音で構築されており、一聴するととっちらかったような感じも受けるのですが、ビートとしては破綻なくまとめられており、その微妙なバランスがとても刺激的です。
各音の位相/ミックスにも細心の注意が払われているようで、非常に奥行きのある、立体的な構造も聴きとることができ、そういった部分にはまるでシュトックハウゼンやリュック・フェラーリなどの現代(電子)音楽家があえてHIPHOPをやっているかのようなラディカルな意識、HIPHOPのビートメイカー達のチャレンジ精神が行き過ぎた末のアヴァンギャルドな雰囲気がそこはかとなく感じられるのです。
かと言って、本作がそういったギャップや意外性で聴かせるだけの、音楽家の自意識だけが先行した無味乾燥な作品かというとそうではありません。
ガラガラ、ゴトゴトとした媚びの感じられないビートの隙間には引きずるようなベースラインや微弱な電子ノイズ、美しく点描的なピアノなどが巧みに配置され、抜き差しされることで楽曲はただの「音の集まり」でなく、イエラシの意識を投影したものとしての色彩を帯びていきます。
聴き手は本作を聴いている間、物音ビート(笑)や電子ノイズのドライでトンガッた印象と、ベースラインが醸すHIPHOP的なマッチョイズム、そしてピアノやストリングスが滲ませるセンチメンタルな空気との境をふらふらと行き来するかのように焦点が定まらない感覚を覚えるはずです。
そしてそれは、単なる現代音楽家や実験音楽家、そしてHIPHOPのビートメイカーには到底生み出せない、言表しがたいドープさ/酩酊感をはらんでいるのです。
各ジャンルを横断するというよりはむしろ色々な要素が混ざり合い、絶妙のバランス感覚によりまとめあげられることで生まれた、まさに彼にしか作れない唯一無二の音楽と言って差し支えないでしょう。
名刺代わりということか全体で27分程度のコンパクトな作品になっていますが、ぜひこの手法でフルレングスの作品を作ってもらいたいものですね。
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