Moonriders "マニア・マニエラ"

Artist: Moonriders
Album: "マニア・マニエラ"
Label: ジャパンレコーズ
Year: 1982 (Recorded: 1981)
Tracklist
01. Kのトランク (3:24)
02. 花咲く乙女よ穴を掘れ (3:20)
03. 檸檬の季節 (3:43)
04. 気球と通信 (4:23)
05. バースディ (3:24)
06. 工場と微笑 (3:17)
07. ばらと廃物 (2:59)
08. 滑車と振子 (2:47)
09. 温和な労働者と便利な発電所 (3:15)
10. スカーレットの誓い (3:52)
1977年のデビューから2011年の無期限活動休止発表まで、ムーンライダーズは数多くの名作を残してきました。
6人全員が作曲し、基本的にセルフ・プロデュースで作品を発表するスタイルは、彼らと交流がある、そして彼らを表す際になぞらえられる(「日本の~」)ことの多いXTCとは正反対であり、ある意味ではXTCの『if』とも言うべき姿であると思うこともあります。
そんな彼らが最も先鋭的であったのは1980年前後、アルバムにして言えば"Modern Music"から"Don't Trust Over Thirty"までの時期であることは多くの人に首肯いただけるのではないかと思いますが、その中でも特に、彼らの最高傑作と呼ぶべき作品は1980年の"カメラ=万年筆"か、1982年に、当時珍しいCDという形で発表されたこの"マニア・マニエラ"であると思うのです。
このアルバム、実は1981年には録音が完了し、発表される予定だったわけですが、ニューウェーヴやポスト・パンクだけでなく、テクノやインダストリアルまでも大々的に取り込んだサウンドにより「難解すぎる」「売れない」とレコード会社に評価されてしまい、彼ら自身により発売中止の決定がなされたいわくつきの作品でもあります。
その後、急ぎ録音された"青空百景"の3ヵ月後にCDというフォーマットで陽の目をみたわけですが、当時まだ普及していないフォーマットでの発表は当然うまくいくはずがなく、1984年のカセットブック化、1986年にやっとのLP化を経た後、しばらく廃盤状態が続いていたようです。
改めて聴いてみると、ドラムスを各パートごとに録音して改めて構築したビートのギクシャクとした硬質な感覚や、随所に配置されたキーボード発音と思われるノイズ/具体音には、当時UKで隆盛を極めつつあったインダストリアル・ミュージックと非常に高い親和性があります。非常に「トンガった」音であると言えるでしょう。
しかしながら、全体的に見れば演奏/メロディは非常にポップで、そこまで聴きづらいとは思えません。当時を思えば「難解すぎる」との評は仕方ないとも思えますが、現在のリスナーからすれば、刺激的なロックの一つとしかとられないこともあるのかもしれません。
しかし、このアルバムは今なお非常にアヴァンギャルドに響きます。
それは何故かというと、複数のコンセプトが絡まりながら多層化したその構成にあるのではないかと思うのです。
ライダーズはコンセプトのバンドです。
"カメラ=万年筆"では「架空の映画のサウンドトラック」を標榜して全ての楽曲で実在する映画の題名を曲名としてみたり、"ANIMAL INDEX"では「動物」というコンセプトと、「全員2曲ずつ持ち寄る」というルールによりアルバムを構築したりと、様々なテーマや縛りを設けてアルバムを構築してきた彼らの、その性質が元も色濃く現れたのがこの作品ではないでしょうか。
「薔薇がなくちゃ生きていけない」というフレーズからスタートしたこのアルバムは、「薔薇」から連想される「赤」、そしてそこから「共産主義」、さらには「工業/工場」「労働者」にまでそのコンセプトを多層化させているのです。
そして、先ほど挙げたような特徴的なサウンドは、それら複数のコンセプトを貫き、一つのアルバムとしての統一性を見事に実現しています。
だからこそこの作品は、どこまでも難解/複雑でありながら強固な「構造的な強さ」を持ちえているように思えます。本当に驚くべき作品です。
ちなみに、9曲目'温和な労働者と便利な発電所'は3.11の大震災以降、図らずも世相とリンクしてしまいました。(「一人一つくれシェルター!」)
さりげなく2度目の「旬」を迎えているこの作品、ぜひ聴いてみてはいかがでしょうか。
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