tricot "3"

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Artist: tricot
Album: "3"
Label: BAKUERTSU RECORDS
Year: 2017

Tracklist
01. TOKYO VAMPIRE HOTEL (2:32)
02. WABI-SABI (3:08)
03. よそいき (3:56)
04. DeDeDe (3:32)
05. スキマ (5:19)
06. pork side (1:01)
07. ポークジンジャー (4:45)
08. エコー (3:49)
09. 18,19 (4:02)
10. 南無 (2:47)
11. MUNASAWAGI (4:12)
12. 節約家 (4:31)
13. メロンソーダ (2:44)

よくぞここまで練り上げた、というのが本当に正直な感想です。

年々海外への進出も増え、最早「日本の誇る」と言っても決して言い過ぎではないガールズ・ロック・バンドtricotの新作"3"はその潔いタイトルからも想像がつくとおり、とにかく今の彼女たちをそのままぶつけたようなソリッドな作品に仕上がりました。

デビュー以降リズムにこだわった複雑な楽曲をその持ち味としてきた彼女達でしたが、1stくらいまでは楽曲の構成の複雑さとメロディの絡みがもう一歩といった感じがありました。
しかし、2015年の前作"A N D"では、GarageBandでの作曲も行ったことに起因するのか楽曲構成はややシンプルに変化したことで、ソングライティングに格段の向上が見え、エモーショナルなメロディと、内省的でありながら衝動的でもある歌詞/言葉とを活き活きと聴き手の心に深く響かせることに成功したように思います。

そしてその冬に配信限定でリリースした'ポークジンジャー'、さらには昨年の"KABUKU EP"と、向上したソングライティングに初期のリズム志向が合流/融合して「複雑なのに自然」な楽曲をいとも容易く(思えるほどに)作り始めた彼女たちが本作は、まさに彼女たちのこれまでの集大成といっても良い力作であり、まごうことなき名作です。

冒頭の'TOKYO VAMPIRE HOTEL'のリスナーを煽るように攻撃的なドラムからスタートし、終曲'メロンソーダ'で唐突に終わりを告げるまでの間、キダ・モティフォがギターを掻き鳴らし、ヒロミ・ヒロヒロがぶっといベースラインを奏で、中嶋イッキュウが狂おしく歌い上げ続ける様子には、彼女達の演奏している姿が浮かんでくるほどの躍動感が感じられ、収録時間の46分は本当にあっという間に過ぎてしまうことでしょう。

そんな中でも、5曲目のようなSSWっぽい作風や、8曲目のサブカル女子っぽい(?)作風、1stの'POOL'に対する前奏曲'pool side'をもじったと思しき6曲目(もちろん'ポークジンジャー'の前奏曲です 笑)、同じく1stのキラーチューン'おちゃんせんすぅす'を彷彿とさせるおふざけナンバーでもある10曲目、青臭さを感じさせる先行曲の13曲目など、ソングライティングはよりディープに、かつ幅広くなってきたと思います。

演奏面ではまずキダ・モティフォのギターサウンドが以前にも増して多彩になったことが耳を惹きます。
"KABUKU EP"に先行で収録されていた12曲目'節約家'の間奏部分にて、ダブ処理されたドラムに合わせ空間的なサウンドを披露していましたが、今作ではそれがさらに進み、シューゲイザーやアンビエント、あるいはニューウェイヴなども視野に入っているかのように様々なサウンドを聴かせてくれます。
ヒロミ・ヒロヒロのベースラインは今まで以上にしなやかななグルーヴを醸し、ファンクなども想起させるようにダンサブルになっております。本作にはなんとなく「夜」っぽいイメージがついて回るのですが、それは間違いなく彼女のベースに起因するところが大きいでしょう。
そして中嶋イッキュウの歌声は今まで以上にストレートで、素直で、一瞬違う人かと思ってしまいましたが、本作の、複雑でありながらどこか肩の力が抜けたような風通しの良さに強く貢献しています。叫びが、声の上ずりが、つぶやきが全て感情的・感動的で素晴らしいロック・ヴォーカルに成長したと感じます。

まさに「進化」し続けている彼女達の現状報告、こちらも真摯な気持ちで聴きこんで七夕の高松ライヴに望む所存です(笑)

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Arto Lindsay "Cuidado Madame"

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Artist: Arto Lindsay
Album: "Cuidado Madame"
Label: P-Vine./Ponderosa
Year: 2017

Tracklist
01. Grain By Grain (3:30)
02. Each To Each (3:06)
03. Ilha Dos Prazeres (3:46)
04. Tangles (3:52)
05. Deck (3:22)
06. Vao Queimar Ou Botando Pra Dancar (3:31)
07. Seu Pai (4:05)
08. Arto Vs Arto (2:12)
09. Uncrossed (4:04)
10. Unpair (3:54)
11. Pele De Perto (2:30)
12. Nobody Standing In That Door (4:18)
※12は日本盤のみのボーナストラック


NYのノー・ウェイヴ・シーンでデビューし、一筋縄ではいかない遍歴を辿る音楽家アート・リンゼイの、前作"Salt"から実に13年ぶりとなる新作が、今年頭にリリースされました。
これが今年一発目の新作となった方も多いのではないでしょうか。(私はHelmでしたけど)

そもそも、彼の音楽的なルーツにあるのは、やはり多感な幼少期~青年期を過ごしたブラジルの音楽にほかならないと思います。
キャリアの最初期を飾るDNAでの演奏こそギターの調律無視(≒パーカッシヴ)な奏法によるアヴァン性が突出したものでありましたが、彼の根底にはブラジル音楽が、ひいてはそれにおいて後ろ向きな感情(サウダーヂ)がクールに歌われることで醸される独特の情感(多く見られる表現を借りて「官能」というのが適当かもしれません)があったのは間違いないでしょう。
そう思えば、今作の歌詞の多くにおいて何らかの「不在」が歌われているように思えるのも不思議ではないように思えます。
なぜなら、サウダーヂという感情の本質は「幸せだった過去」が「今は存在しないこと=不在」にあるのですから。

Ambitious Lovers以降はそういった自身のルーツを素直に出し、ソロの諸作においてその傾向はいっそう強まりました。
特に前作"Salt"はその極地とも言える作品で、ノイジー/インダストリーなビートによるグルーヴと残響の生み出す奥行きとが、彼の紡ぐメロディ/歌詞をいっそう引き立てる、重厚な雰囲気の感じられるものでした。

今作はそれに比べるとさらに歪さを感じさせる音が増え、DNA期を思い出させるノイズギターも今まで以上にフィーチュアされているように思いますが、「不在」を歌うという内容とは裏腹に、その感触はとても軽やかで小気味良く、どこか爽やかにすら思えます。
今作で彼は「カンドンブレとゴスペルの融合」というテーマを念頭におきながら作成したとのことですが、実を言うとカンドンブレ音楽を特徴付けるリズムというのは、彼が昨年プロデュースしたロウレンソ・へベッチスのデビュー作でも非常に効果的に使われており、あの作品に参加した打楽器奏者3名は今作にも名を連ねています。
ヘベッチスの作品では「ビッグ・バンド・ジャズ/ラージ・アンサンブル」との組み合わせが試みられたカンドンブレ音楽は、今作ではゴスペル、つまり「歌」との組み合わせが試みられたというわけです。

複数の打楽器が複雑に絡み合い、速いのか遅いのか、スピード感覚を狂わせるようなサイケデリアを生み出すカンドンブレのリズムは、アートのギターを始めとするや様々なノイズ、盟友メルヴィン・ギブスによるベースライン、デジタルビート、そしてアート自身のか細い歌声など、音楽的/非音楽的に関わらず全ての音を飲み込み、統合するかのようにも聴こえてきます。
そういった印象に起因するのだろうと思いますが、「実験と官能」という表現であたかも彼がそれを両立しているかのような評がそこかしこで見られるなか(事実私も前作のレビューでそういったことを述べたようにも記憶しているのですが)、今作を聴いていると彼にとって主たる目的なのは「官能」の方で、「実験」は(「非実験」も含め)それを効果的に表現するための手法に過ぎないのかもしれない、と感じました。

「実験と官能の使徒」ではなく、ただ純粋な「官能の使徒」あるいは「マエストロ」として実験的/非実験的に関わらず効果的な「音」を効果的に活用することで生まれた「職人的な快作」こそが、今作の本質なのかもしれません。

He Was Eaten By Owls "Chorus 30 From Blues For The Hitchhiking Dead"

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Artist: He Was Eaten By Owls
Album: "Chorus 30 From Blues For The Hitchhiking Dead"
Label: Fu Inle Records/Ozona Records
Year: 2016

Tracklist
01. We Shall Oscillate Like A Pendulum (2:35)
02. Once I Saw My Thoughts Drive The Sorrow From Her Face... (4:41)
03. Most Young Kings Get Their Head Cut Off (3:28)
04. Do Not Go Gentle Into That Goodnight (2:29)
05. Asleep, The Moon In One Eye, The Sun In The Other (3:28)
06. What We Talk About When We Talk About Love (1:38)
07. Throw Away Your Keys For Bodies Contain No Locks They Understand (5:10)
08. Sometimes It Feels Like Someone Else Is Wearing My Body (2:02)
09. Except You Enthral Me, Never Shall Be Free, Nor Ever Chaste, Except You Ravish Me (3:47)


個人的に、今年一番の収穫というとやはりインディー・クラシックなる動きに目を(耳を)向けることができたことではないかな、と思っています。
ダニエル・ウォールのレビューでは、このムーヴメントにおいてある種の音楽的スタイルがあるのではないかという前提のもとレビューを組み立てていましたが、半年以上経って多少なりイメージが変わり、音楽的なスタイルよりもむしろ自発的な(それこそDIYな)精神を持ち、フレキシブルに動く楽団の増加こそがこのムーヴメントの大切なところなのだろうな、と思っています。

このムーヴメントの中心となった地域は間違いなくアメリカのNYでしょうが、実は結構色々なところで同様な動きが見られるような予感も感じ始めているところでして、パッと思いつくところで言えば、同国メリーランド州で行われたフェスで出会ったストリングス・カルテットを招聘して新作"Gardens in My Mind"を作ったジョアンナ・ウォルフィッシュなどもこの動きに共鳴していたように思います。

彼女の出身はUKのロンドンでしたが、同地出身のポスト・ロック/マス・ロック・ユニットHe Was Eaten By Owlsが満を持して発表した1stフルアルバム"Chorus 30 From Blues For The Hitchhiking Dead"も、クラシカルなテクスチュアを内に取り込みながら、そういったDIYな空気を強く感じさせる力作に仕上がっています。

ユニットはマルチ奏者のカイル・オウルス(Kyle Owls)とドラムス/パーカッション担当のヴィリアス・カンクラリス(Vilius Kancleris)のデュをを中心として成り立っており、この2名のみで活動している時期もあるようで、youtubeではその頃のライヴ動画を見ることができます。

基本的にはカンクラリスの叩き出す変拍子/複合拍子を詰め込んだドラムと、オウルスによるクリーントーンの酩酊ギターを中心として楽曲が構成されているのですが、そこにさらにヴィオラやチェロといったストリングスに、クラリネットやトランペット、フリューゲルホルンやバスクラリネットといったブラスが加わります。
これらのストリングス/ブラスは、2名の複雑な演奏に難なく対応しながら、クラシカルな、そしてジャジーなテクスチュアを加えつつ、更にはオウルスのギターフレーズに対位法的に絡んでいくフレーズを奏でることで楽曲に躍動感を与え、豊かな色彩感を付与しています。

ロンドン交響楽団を始めとし、様々な楽団の出身者から構成されたこのストリングス/ブラス隊が、中心となる2名の音楽にただのマスロック/チェンバーミュージックに留まらない魅力を与えていることは間違いありませんし、また、そういった複数のパートが入り乱れることを前提とした楽曲を書き、アレンジを加えるオウルスの作曲/アレンジ能力の高さにも注目すべきだと思います。

フィジカルは当然有料ですが、デジタルのみで良ければbandcampにて無料(Name Your Price)で手に入れることができます。
かなり魅力的な作品ですので、是非聴いてみてください。(気に入ったらぜひフィジカルを!)


King Crimson "Radical Action to Unseat the Hold of Monkey Mind"

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Artist: King Crimson
Album: "Radical Action to Unseat the Hold of Monkey Mind"
Label: DGM
Year: 2016

Tracklist
収録内容はこちら
(Burning Shedの3CD/2DVD/1Blu-Ray版のページ)


"Live in Toronto"のレビューでも触れたとおり、King Crimsonの、日本公演(しかも私の参加した高松公演)中心とした音源からセレクトされた、昨年のツアーのベスト・ライヴ作品がDGMよりリリースされました。
音源と映像とでそれぞれ収録内容が微妙に異なるようで(細かい収録場所などのデータは非公開のためイマイチ分かりませんが…)、さらに音源の方はライヴをそのままではなく、観客の歓声をオミットし、さらに曲順も思案の上3枚に分けることで、独立した作品とすることを目的として制作されたようです。

演奏そのものの大枠については高松公演のライヴレポ"Live in Toronto"をご参照いただくとして、今回はそういった、本作の編集面について述べさせていただきます。

ディスク1は'Larks' Tongues in Aspic'2曲を最初(パート1)とラスト('The Talking Drum'~パート2)に配し、間には本作のタイトルともなった新曲'Radical Action'や'Meltdown'、クリムゾン・プロジェクトの'The Light of the Day'、そしてトリプルドラムの見せ場であった'The Hell Hounds of Krim'~'The ConstruKction of Light'などを収録し、"Mainly Meatl"というサブタイトルのとおり、今回のツアーにおけるヘヴィなインストナンバー中心の選曲です。
'Radical Action'のパート2は今作で初の収録("Live in Toronto"の時点では'Meltdown'前にパート1があったのみ)となりましたが、改めて聴くとやはり'Level Five'に繋ぐことを意識してパート1のリフを用いながらも'Level Five'の変奏/導入として作曲されたものであるように感じました。

ディスク2は一転して歌もの中心の選曲で、"Easy Money Shots"というサブタイトルが付けられています。
個人的に、本ツアーで最も面目躍如した楽曲であると思う'Pictures of a City'を始め、'Easy Money'、'The Letters'など重厚な歌曲が並ぶと同時に、日本公演では殆ど演奏されなかった'Suitable Grounds for the Blues'や、さらに'VROOOM'や'The Sailor's Tail'などのインスト曲も収録されています。(また、冒頭の'Peace'は日本公演で歌われた、1stヴァースを日本語訳したものです。)
個人的にはディスク1とディスク3それぞれに代表曲を取られてしまってやや地味な選曲になっている感も否めませんが、全体的な流れは悪くありませんし、'VROOOM'などは"Live in Toronto"からもさらにアレンジが変更され、メル・コリンズのサックスも十分ヘヴィに響いており、トロントから1ヶ月程度でもこのラインナップの演奏がレベルアップしていることが分かると思います。

そしてディスク3。
"Crimson Classics"というタイトル通り、クリムゾンの名曲目白押しの選曲となっています。
これでもかと繰り出される名曲の数々に、歓声がオミットされていることもあり、「架空の名作」のような雰囲気が濃厚に漂っています。

全体通して聴いてみると、かなり色々な時期(80年代以外から満遍なく選曲)の楽曲を演奏しているにも関わらず、今のクリムゾンの演奏として一本の筋が通っているように感じるのは流石といった感じです。
新曲については、(ドラム主体の'The Hell Hounds of Krim'などはともかくとして)ミレニアムクリムゾン以降の空気が強く感じられるように思いました。

ちょっと意外だったのはタイトルに'Blues'と冠した上、内容も(それまでのクリムゾンに比べると)ちょっぴりブルーズっぽい'Suitable Grounds for the Blues'でした。
"Earthbound"などでも記録が残ってい通り、一時期はブルーズ的な演奏を断固拒否さえしていたフリップがこんな曲を演るなんて、時間は人を色々と変えるのだな、なんて妙な感慨にひたったりします(笑)

映像については、基本的に映像作品として出す前提での撮影ではなかったようなので、そういう作品として見ると物足りない部分も残りますが、演奏(特にフリップの)の手元が要所要所ではっきりと見れたりと、これはこれで面白いものでした。(あのお化けみたいな編集はちょっと笑っちゃますけど)
なにより、こちらも多くは高松公演ということで色々記憶と照らし合わせながら楽しむことが出来そうで、本当に有り難いと思います。
ただ、性質上画質も無茶苦茶良いというわけではないので、わざわざBlu-Rayを買う必要はないかもですね。Blu-Rayの利点は全曲をぶっ通しで見れる、ということだけだと思います。
あと、6枚組BOX(3CD/2DVD/1-Blu-Ray)など出てますが、2DVDと1Blu-Rayの収録内容は全く同じですので、これから購入予定の方はその辺り了解のうえでフォーマットを選択していただけたらと思います。

すでに新しいツアーが開始し、'Fracture'などやったという情報も入っています。(なんと速度も上がってるとかなんとか…)
今年は流石に日本に(というか高松には)来ないと思いますが、機会があればぜひ次回の来日公演にも行ってみたいと思いますし、それまではこのフルヴォリュームの作品をちょくちょく聴き返しながら、想い出の高松公演の記憶に浸りたいと思います(笑)


坂本慎太郎 "できれば愛を(Love If Possible)"

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Artist: 坂本慎太郎
Album: "できれば愛を(Love If Possible)"
Label: Zelone Records
Year: 2016

Tracklist
01. できれば愛を(Love If Possible) (5:26)
02. 超人大会(Tournament of Macho Man) (3:42)
03. べつの星(Another Planet) (4:39)
04. 鬼退治(Purging The Demons) (3:25)
05. 動物らしく(Like an Animal) (3:56)
06. 死にませんが?(Feeling Immortal) (4:04)
07. 他人(Others) (6:17)
08. マヌケだね(Foolish Situation) (4:00)
09. ディスコって(Disco Is) (4:57)
10. いる(Presence) (3:44)
※初回版・通常版ともに上記のインスト盤(Disc 2)が付属


坂本慎太郎の新作を聴く度、学生時代に先輩が彼を評して言った「現代の妖怪」という言葉に納得しているような気がします。
最新作の"できれば愛を"でもそれはいつも通り、あるいは、もしかするとこの作品は今まで以上に彼の「妖怪」感=底知れなさを物語る作品なんではないかな、と思えてきます。

前作"ナマで踊ろう"は、あえて強烈にポリティカルな言葉を使い、それを政治など全く関係ないかのようなサウンドと組み合わせることで、言葉そのものを「一種のステレオタイプなイメージ」と「本来の意味」の2つの側面で認識させ(あるいは認識させなくさせ)、ユートピア/ディストピアが反転しながらないまぜになるようなサイケデリアをリスナーにつきつける、非常にコンセプチュアルな作品であったと思います。
正直鬼気迫るほどの完成度だったと思いますので、次の作品が大層作りづらいだろうなぁ、とは思っていたのですが、当の本人はこんな一リスナーの心配などどこ吹く風といった雰囲気で、さらりと本作のような作品をドロップしてくるのだから、もう降参です(笑)

まず、アルバム開始と同時に強く意識されるのは、音の鳴りではないでしょうか。
坂本がインタヴューで「部屋鳴りとかも一緒に録った」と言っている通り、本作は全編通しスタジオの部屋/壁の存在、そしてそこで演奏しているメンバーの息遣いを感じさせるような生々しい音で録音されることで、非常に印象深いサウンドに仕上がっています。
最初のドラムが入ってきた瞬間から、まるで彼らの演奏するスタジオに招かれたかのような錯覚に陥るのですが、同時に、スタジオの外の世界は全く存在していないかのようでもあり、かなり地下室っぽい、密室感のあるサウンドでもあると思います。

楽曲については今回も、ゆらゆら帝国時代の"空洞です"から地続きの「宙吊りのサイケデリア」を強く感じさせるものになっているように思います。
重心低めでちょっぴりレゲエ/ダブっぽいゆるさのあるドラム、モコモコとした音像で這いまわるベース、ドリーミーな音色で浮かんでは消えるキーボード、艶やかなサックス、おどけて転がるマリンバ、そしてもはや彼のソロ作品でのトレードマークとも言えるラップスティールギターが織り成す音は相変わらずファンク/AOR/ソフトロックを視野に入れたスムースなものです。
かなりシリアスな感のあった前作に比べるとメロディも人懐っこいものが多い印象で、全体的な雰囲気には、むしろ1st"幻とのつきあい方"とその後のシングル"まともがわからない"あたりに通底するようなものがあります。

坂本の声には相変わらず思慮深さとエロスが宿っておりますので(笑)、彼が歌い出すとどうしても得も言われぬ不気味さが漂うようには感じますが、歌われる歌詞については対立する2つの要素のどちらにもよらない、というような内容のものが多く、そういった部分でも相変わらずの「宙吊り感」が強く感じられます。
正直、歌詞については多くの人がシリアスにとりすぎというか、むしろ「声」という独特のテクスチュアを持った楽音だと思った方がいいのかな、なんて思ったりもするんですよね。
なんと言っても、バンド時代の'空洞です'では「通ってごらん」なんて言ってた「空洞(穴ぼこ)」について、今回はそこに「何か入れてくれ」なんて歌ってるんですから(笑)

この「意味があるようでないような(それでやっぱりあるような)感じ」が、何度も申しますように「宙吊り感」につながっているわけです。
坂本自身、「朝起きて、「ああ今日から夏休みだ」と思って。「まだ寝てていいんだ」って思う。その思った瞬間を引き延ばしたような音楽」なんて語っていますが、密室感の強い、外界を意識させないサウンドと彼の歌とが合わさって、今作を聴いている間はまるで時間が止まっているような感覚に陥ります。
前作は全てが過ぎ去った後の世界を設定することで時間を超越した部分に作品を置くことに成功しましたが、今作はむしろ「今」という一瞬にフォーカスして、それを永遠に思えるまでに引き伸ばすことで時間そのものを無化しようとしてるのかもしれません。

彼の声、歌詞、そしてメンバーたちの生み出すサウンドは正にそれを達成していると思いますし、そのおかげか今作は聴いていて、嫌なことを全て忘れさせてくれるようでとても心地よいです。

また、前作についてはSly & The Family Stoneの"There's A Riot Goin' On(暴動)"とつなげるような評が多かったような記憶があります。
それになぞらえれば、前に比べればポップだけど、それでも閉塞的で密室的な空気を存分に香らせる今作は坂本なりの"Fresh!"であるようにも思えます。

聴けば聴くほど、彼が普通の感覚で作品を作っていないんだということをつきつけられている気分ですね。
やはり「現代の妖怪」は伊達じゃない、といったところでしょうか(笑)


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