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betcover!! "中学生"

betcover!!_中学生

Artist: betcover!!
Album: 中学生
Label: Cutteing Edge
Year: 2019

Tracklist
01. 羽
02. 水泳教室
03. 異星人
04. 決壊
05. 雲の上
06. 世界は広いよ
07. ゆめみちゃった /アルバムver.
08. 海豚少年 /アルバムver.
09. 素直な気持ち
10. 中学生


若干20歳とは思えない朴訥とした空気と歌心、そして若干20歳らしいてらいなく、作為のない実験性。
それだけで私にとっては、この作品を昨年の個人的ベストとするに十分すぎるほどだったと感じています。

東京都は多摩出身のヤナセジロウによるソロプロジェクトbetcover!!を知ったのは確か昨年春先に本作の収録曲'決壊'のMVをyoutubeで聴いたのが最初だったと記憶しています。
レゲエマナーに沿ったベースラインと突如挿入されるノイジーなギターの咆哮、そしてそれを過度に強調するような音作り。さらに載るセンチメンタルで、若者らしく人を思い慕う心のようで、それでいてただ思いついた言葉を並べただけのような虚無を感じさせるかのような言葉の群れは控えめに言っても衝撃的に過ぎ、すぐさまこのシンガーソングライターについて詳細をディグさせるには十分なものでした。

7月に(これほど言葉の通りの意味を感じたことは未だかつて少ないのですが)満を持して発表された本作"中学生"は、タイトルが示す通り自身の理想と現実とのギャップに悩む心をそのまま映したかのように攻撃的で、それでいてヤナセ自身も含め今を生きる存在(人間だけでなく)に対する愛を感じさせるかのようにラブリー/ピースフルな浮遊感を感じさせる作品に仕上がったように感じています。

本人の言をとるなら、幼少の頃から慣れ親しんだEarth Winf & Fireなどに影響を受けたとのことですが、本作を聴く限りではそういったR&B的な要素は作曲・アレンジ面からは感じられません。
むしろもう一方で上がるFISHMANSの雰囲気などが近いのかと感じます。
全編通して感じるダブに影響を受けていそうな感じがそう思わせるのでしょうが、そのつもりで聴いてみると逆にFISHMANS的(というよりは一般的にダブ的といえる)な深海感はあまりなく、むしろ大空を感じさせるような吹き通しの良さがあります。
そしてそれに施されるミックスなどの感覚は確かにR&Bにも似たような小気味の良さとメロウな感覚があるのです。

しかしながら(?)彼の作曲のベースにあるのは日本字らしいフォーキーさを感じさせるのものでありますし、最終的な録音/ミックスに至る部分には先述したレゲエ/ダブ的なベース強調の空気も感ぜられます。
さらに歌詞は直情的で、しかしながら直喩暗喩をたっぷり含んだ様々な意味にとれるようなものになっており、一度・二度聴いただけでの判断を許さないような奥深いものになっています。

もはや自分自身でも支離滅裂に思えてきましたが(笑)これらのあまりに雑多な要素がたった10曲の中に詰め込まれ、混ぜ合わされ、まとめられて提示されたのがこの"中学生"という作品なのです。

こんな作品は、何十年もキャリアを重ねたミュージシャンにこそ作ってほしいものではありますが、ヤナセジロウが若干20歳にしてこれを作り上げたということには、驚きもあるものの、むしろ経験を重ねていないからこそのノーブルな輝きが非常にうまく作用したようにも思えてきます。
要は奇跡的な作品だということです(笑)

とにかく、まだ未聴の方はぜひ一度聴いていただきたいと思います。
独特の、そして確固たる世界観に魅了されるであろうことは保証いたします。

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2017年8月の購入予定

Everything Everything "A Fever Dream"(RCA)


F ingers "Awkwardly Blissing Out" (Blackest Ever Black)


あとは先月購入予定のPessimistが発売延期で今月の予定。

tricot "3"

0517_tricot.jpg


Artist: tricot
Album: "3"
Label: BAKUERTSU RECORDS
Year: 2017

Tracklist
01. TOKYO VAMPIRE HOTEL (2:32)
02. WABI-SABI (3:08)
03. よそいき (3:56)
04. DeDeDe (3:32)
05. スキマ (5:19)
06. pork side (1:01)
07. ポークジンジャー (4:45)
08. エコー (3:49)
09. 18,19 (4:02)
10. 南無 (2:47)
11. MUNASAWAGI (4:12)
12. 節約家 (4:31)
13. メロンソーダ (2:44)

よくぞここまで練り上げた、というのが本当に正直な感想です。

年々海外への進出も増え、最早「日本の誇る」と言っても決して言い過ぎではないガールズ・ロック・バンドtricotの新作"3"はその潔いタイトルからも想像がつくとおり、とにかく今の彼女たちをそのままぶつけたようなソリッドな作品に仕上がりました。

デビュー以降リズムにこだわった複雑な楽曲をその持ち味としてきた彼女達でしたが、1stくらいまでは楽曲の構成の複雑さとメロディの絡みがもう一歩といった感じがありました。
しかし、2015年の前作"A N D"では、GarageBandでの作曲も行ったことに起因するのか楽曲構成はややシンプルに変化したことで、ソングライティングに格段の向上が見え、エモーショナルなメロディと、内省的でありながら衝動的でもある歌詞/言葉とを活き活きと聴き手の心に深く響かせることに成功したように思います。

そしてその冬に配信限定でリリースした'ポークジンジャー'、さらには昨年の"KABUKU EP"と、向上したソングライティングに初期のリズム志向が合流/融合して「複雑なのに自然」な楽曲をいとも容易く(思えるほどに)作り始めた彼女たちが本作は、まさに彼女たちのこれまでの集大成といっても良い力作であり、まごうことなき名作です。

冒頭の'TOKYO VAMPIRE HOTEL'のリスナーを煽るように攻撃的なドラムからスタートし、終曲'メロンソーダ'で唐突に終わりを告げるまでの間、キダ・モティフォがギターを掻き鳴らし、ヒロミ・ヒロヒロがぶっといベースラインを奏で、中嶋イッキュウが狂おしく歌い上げ続ける様子には、彼女達の演奏している姿が浮かんでくるほどの躍動感が感じられ、収録時間の46分は本当にあっという間に過ぎてしまうことでしょう。

そんな中でも、5曲目のようなSSWっぽい作風や、8曲目のサブカル女子っぽい(?)作風、1stの'POOL'に対する前奏曲'pool side'をもじったと思しき6曲目(もちろん'ポークジンジャー'の前奏曲です 笑)、同じく1stのキラーチューン'おちゃんせんすぅす'を彷彿とさせるおふざけナンバーでもある10曲目、青臭さを感じさせる先行曲の13曲目など、ソングライティングはよりディープに、かつ幅広くなってきたと思います。

演奏面ではまずキダ・モティフォのギターサウンドが以前にも増して多彩になったことが耳を惹きます。
"KABUKU EP"に先行で収録されていた12曲目'節約家'の間奏部分にて、ダブ処理されたドラムに合わせ空間的なサウンドを披露していましたが、今作ではそれがさらに進み、シューゲイザーやアンビエント、あるいはニューウェイヴなども視野に入っているかのように様々なサウンドを聴かせてくれます。
ヒロミ・ヒロヒロのベースラインは今まで以上にしなやかななグルーヴを醸し、ファンクなども想起させるようにダンサブルになっております。本作にはなんとなく「夜」っぽいイメージがついて回るのですが、それは間違いなく彼女のベースに起因するところが大きいでしょう。
そして中嶋イッキュウの歌声は今まで以上にストレートで、素直で、一瞬違う人かと思ってしまいましたが、本作の、複雑でありながらどこか肩の力が抜けたような風通しの良さに強く貢献しています。叫びが、声の上ずりが、つぶやきが全て感情的・感動的で素晴らしいロック・ヴォーカルに成長したと感じます。

まさに「進化」し続けている彼女達の現状報告、こちらも真摯な気持ちで聴きこんで七夕の高松ライヴに望む所存です(笑)

Arto Lindsay "Cuidado Madame"

0106_artolindsay.jpg


Artist: Arto Lindsay
Album: "Cuidado Madame"
Label: P-Vine./Ponderosa
Year: 2017

Tracklist
01. Grain By Grain (3:30)
02. Each To Each (3:06)
03. Ilha Dos Prazeres (3:46)
04. Tangles (3:52)
05. Deck (3:22)
06. Vao Queimar Ou Botando Pra Dancar (3:31)
07. Seu Pai (4:05)
08. Arto Vs Arto (2:12)
09. Uncrossed (4:04)
10. Unpair (3:54)
11. Pele De Perto (2:30)
12. Nobody Standing In That Door (4:18)
※12は日本盤のみのボーナストラック


NYのノー・ウェイヴ・シーンでデビューし、一筋縄ではいかない遍歴を辿る音楽家アート・リンゼイの、前作"Salt"から実に13年ぶりとなる新作が、今年頭にリリースされました。
これが今年一発目の新作となった方も多いのではないでしょうか。(私はHelmでしたけど)

そもそも、彼の音楽的なルーツにあるのは、やはり多感な幼少期~青年期を過ごしたブラジルの音楽にほかならないと思います。
キャリアの最初期を飾るDNAでの演奏こそギターの調律無視(≒パーカッシヴ)な奏法によるアヴァン性が突出したものでありましたが、彼の根底にはブラジル音楽が、ひいてはそれにおいて後ろ向きな感情(サウダーヂ)がクールに歌われることで醸される独特の情感(多く見られる表現を借りて「官能」というのが適当かもしれません)があったのは間違いないでしょう。
そう思えば、今作の歌詞の多くにおいて何らかの「不在」が歌われているように思えるのも不思議ではないように思えます。
なぜなら、サウダーヂという感情の本質は「幸せだった過去」が「今は存在しないこと=不在」にあるのですから。

Ambitious Lovers以降はそういった自身のルーツを素直に出し、ソロの諸作においてその傾向はいっそう強まりました。
特に前作"Salt"はその極地とも言える作品で、ノイジー/インダストリーなビートによるグルーヴと残響の生み出す奥行きとが、彼の紡ぐメロディ/歌詞をいっそう引き立てる、重厚な雰囲気の感じられるものでした。

今作はそれに比べるとさらに歪さを感じさせる音が増え、DNA期を思い出させるノイズギターも今まで以上にフィーチュアされているように思いますが、「不在」を歌うという内容とは裏腹に、その感触はとても軽やかで小気味良く、どこか爽やかにすら思えます。
今作で彼は「カンドンブレとゴスペルの融合」というテーマを念頭におきながら作成したとのことですが、実を言うとカンドンブレ音楽を特徴付けるリズムというのは、彼が昨年プロデュースしたロウレンソ・へベッチスのデビュー作でも非常に効果的に使われており、あの作品に参加した打楽器奏者3名は今作にも名を連ねています。
ヘベッチスの作品では「ビッグ・バンド・ジャズ/ラージ・アンサンブル」との組み合わせが試みられたカンドンブレ音楽は、今作ではゴスペル、つまり「歌」との組み合わせが試みられたというわけです。

複数の打楽器が複雑に絡み合い、速いのか遅いのか、スピード感覚を狂わせるようなサイケデリアを生み出すカンドンブレのリズムは、アートのギターを始めとするや様々なノイズ、盟友メルヴィン・ギブスによるベースライン、デジタルビート、そしてアート自身のか細い歌声など、音楽的/非音楽的に関わらず全ての音を飲み込み、統合するかのようにも聴こえてきます。
そういった印象に起因するのだろうと思いますが、「実験と官能」という表現であたかも彼がそれを両立しているかのような評がそこかしこで見られるなか(事実私も前作のレビューでそういったことを述べたようにも記憶しているのですが)、今作を聴いていると彼にとって主たる目的なのは「官能」の方で、「実験」は(「非実験」も含め)それを効果的に表現するための手法に過ぎないのかもしれない、と感じました。

「実験と官能の使徒」ではなく、ただ純粋な「官能の使徒」あるいは「マエストロ」として実験的/非実験的に関わらず効果的な「音」を効果的に活用することで生まれた「職人的な快作」こそが、今作の本質なのかもしれません。

He Was Eaten By Owls "Chorus 30 From Blues For The Hitchhiking Dead"

hwebo.jpg


Artist: He Was Eaten By Owls
Album: "Chorus 30 From Blues For The Hitchhiking Dead"
Label: Fu Inle Records/Ozona Records
Year: 2016

Tracklist
01. We Shall Oscillate Like A Pendulum (2:35)
02. Once I Saw My Thoughts Drive The Sorrow From Her Face... (4:41)
03. Most Young Kings Get Their Head Cut Off (3:28)
04. Do Not Go Gentle Into That Goodnight (2:29)
05. Asleep, The Moon In One Eye, The Sun In The Other (3:28)
06. What We Talk About When We Talk About Love (1:38)
07. Throw Away Your Keys For Bodies Contain No Locks They Understand (5:10)
08. Sometimes It Feels Like Someone Else Is Wearing My Body (2:02)
09. Except You Enthral Me, Never Shall Be Free, Nor Ever Chaste, Except You Ravish Me (3:47)


個人的に、今年一番の収穫というとやはりインディー・クラシックなる動きに目を(耳を)向けることができたことではないかな、と思っています。
ダニエル・ウォールのレビューでは、このムーヴメントにおいてある種の音楽的スタイルがあるのではないかという前提のもとレビューを組み立てていましたが、半年以上経って多少なりイメージが変わり、音楽的なスタイルよりもむしろ自発的な(それこそDIYな)精神を持ち、フレキシブルに動く楽団の増加こそがこのムーヴメントの大切なところなのだろうな、と思っています。

このムーヴメントの中心となった地域は間違いなくアメリカのNYでしょうが、実は結構色々なところで同様な動きが見られるような予感も感じ始めているところでして、パッと思いつくところで言えば、同国メリーランド州で行われたフェスで出会ったストリングス・カルテットを招聘して新作"Gardens in My Mind"を作ったジョアンナ・ウォルフィッシュなどもこの動きに共鳴していたように思います。

彼女の出身はUKのロンドンでしたが、同地出身のポスト・ロック/マス・ロック・ユニットHe Was Eaten By Owlsが満を持して発表した1stフルアルバム"Chorus 30 From Blues For The Hitchhiking Dead"も、クラシカルなテクスチュアを内に取り込みながら、そういったDIYな空気を強く感じさせる力作に仕上がっています。

ユニットはマルチ奏者のカイル・オウルス(Kyle Owls)とドラムス/パーカッション担当のヴィリアス・カンクラリス(Vilius Kancleris)のデュをを中心として成り立っており、この2名のみで活動している時期もあるようで、youtubeではその頃のライヴ動画を見ることができます。

基本的にはカンクラリスの叩き出す変拍子/複合拍子を詰め込んだドラムと、オウルスによるクリーントーンの酩酊ギターを中心として楽曲が構成されているのですが、そこにさらにヴィオラやチェロといったストリングスに、クラリネットやトランペット、フリューゲルホルンやバスクラリネットといったブラスが加わります。
これらのストリングス/ブラスは、2名の複雑な演奏に難なく対応しながら、クラシカルな、そしてジャジーなテクスチュアを加えつつ、更にはオウルスのギターフレーズに対位法的に絡んでいくフレーズを奏でることで楽曲に躍動感を与え、豊かな色彩感を付与しています。

ロンドン交響楽団を始めとし、様々な楽団の出身者から構成されたこのストリングス/ブラス隊が、中心となる2名の音楽にただのマスロック/チェンバーミュージックに留まらない魅力を与えていることは間違いありませんし、また、そういった複数のパートが入り乱れることを前提とした楽曲を書き、アレンジを加えるオウルスの作曲/アレンジ能力の高さにも注目すべきだと思います。

フィジカルは当然有料ですが、デジタルのみで良ければbandcampにて無料(Name Your Price)で手に入れることができます。
かなり魅力的な作品ですので、是非聴いてみてください。(気に入ったらぜひフィジカルを!)


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