Arto Lindsay "Cuidado Madame"

0106_artolindsay.jpg


Artist: Arto Lindsay
Album: "Cuidado Madame"
Label: P-Vine./Ponderosa
Year: 2017

Tracklist
01. Grain By Grain (3:30)
02. Each To Each (3:06)
03. Ilha Dos Prazeres (3:46)
04. Tangles (3:52)
05. Deck (3:22)
06. Vao Queimar Ou Botando Pra Dancar (3:31)
07. Seu Pai (4:05)
08. Arto Vs Arto (2:12)
09. Uncrossed (4:04)
10. Unpair (3:54)
11. Pele De Perto (2:30)
12. Nobody Standing In That Door (4:18)
※12は日本盤のみのボーナストラック


NYのノー・ウェイヴ・シーンでデビューし、一筋縄ではいかない遍歴を辿る音楽家アート・リンゼイの、前作"Salt"から実に13年ぶりとなる新作が、今年頭にリリースされました。
これが今年一発目の新作となった方も多いのではないでしょうか。(私はHelmでしたけど)

そもそも、彼の音楽的なルーツにあるのは、やはり多感な幼少期~青年期を過ごしたブラジルの音楽にほかならないと思います。
キャリアの最初期を飾るDNAでの演奏こそギターの調律無視(≒パーカッシヴ)な奏法によるアヴァン性が突出したものでありましたが、彼の根底にはブラジル音楽が、ひいてはそれにおいて後ろ向きな感情(サウダーヂ)がクールに歌われることで醸される独特の情感(多く見られる表現を借りて「官能」というのが適当かもしれません)があったのは間違いないでしょう。
そう思えば、今作の歌詞の多くにおいて何らかの「不在」が歌われているように思えるのも不思議ではないように思えます。
なぜなら、サウダーヂという感情の本質は「幸せだった過去」が「今は存在しないこと=不在」にあるのですから。

Ambitious Lovers以降はそういった自身のルーツを素直に出し、ソロの諸作においてその傾向はいっそう強まりました。
特に前作"Salt"はその極地とも言える作品で、ノイジー/インダストリーなビートによるグルーヴと残響の生み出す奥行きとが、彼の紡ぐメロディ/歌詞をいっそう引き立てる、重厚な雰囲気の感じられるものでした。

今作はそれに比べるとさらに歪さを感じさせる音が増え、DNA期を思い出させるノイズギターも今まで以上にフィーチュアされているように思いますが、「不在」を歌うという内容とは裏腹に、その感触はとても軽やかで小気味良く、どこか爽やかにすら思えます。
今作で彼は「カンドンブレとゴスペルの融合」というテーマを念頭におきながら作成したとのことですが、実を言うとカンドンブレ音楽を特徴付けるリズムというのは、彼が昨年プロデュースしたロウレンソ・へベッチスのデビュー作でも非常に効果的に使われており、あの作品に参加した打楽器奏者3名は今作にも名を連ねています。
ヘベッチスの作品では「ビッグ・バンド・ジャズ/ラージ・アンサンブル」との組み合わせが試みられたカンドンブレ音楽は、今作ではゴスペル、つまり「歌」との組み合わせが試みられたというわけです。

複数の打楽器が複雑に絡み合い、速いのか遅いのか、スピード感覚を狂わせるようなサイケデリアを生み出すカンドンブレのリズムは、アートのギターを始めとするや様々なノイズ、盟友メルヴィン・ギブスによるベースライン、デジタルビート、そしてアート自身のか細い歌声など、音楽的/非音楽的に関わらず全ての音を飲み込み、統合するかのようにも聴こえてきます。
そういった印象に起因するのだろうと思いますが、「実験と官能」という表現であたかも彼がそれを両立しているかのような評がそこかしこで見られるなか(事実私も前作のレビューでそういったことを述べたようにも記憶しているのですが)、今作を聴いていると彼にとって主たる目的なのは「官能」の方で、「実験」は(「非実験」も含め)それを効果的に表現するための手法に過ぎないのかもしれない、と感じました。

「実験と官能の使徒」ではなく、ただ純粋な「官能の使徒」あるいは「マエストロ」として実験的/非実験的に関わらず効果的な「音」を効果的に活用することで生まれた「職人的な快作」こそが、今作の本質なのかもしれません。

スポンサーサイト

He Was Eaten By Owls "Chorus 30 From Blues For The Hitchhiking Dead"

hwebo.jpg


Artist: He Was Eaten By Owls
Album: "Chorus 30 From Blues For The Hitchhiking Dead"
Label: Fu Inle Records/Ozona Records
Year: 2016

Tracklist
01. We Shall Oscillate Like A Pendulum (2:35)
02. Once I Saw My Thoughts Drive The Sorrow From Her Face... (4:41)
03. Most Young Kings Get Their Head Cut Off (3:28)
04. Do Not Go Gentle Into That Goodnight (2:29)
05. Asleep, The Moon In One Eye, The Sun In The Other (3:28)
06. What We Talk About When We Talk About Love (1:38)
07. Throw Away Your Keys For Bodies Contain No Locks They Understand (5:10)
08. Sometimes It Feels Like Someone Else Is Wearing My Body (2:02)
09. Except You Enthral Me, Never Shall Be Free, Nor Ever Chaste, Except You Ravish Me (3:47)


個人的に、今年一番の収穫というとやはりインディー・クラシックなる動きに目を(耳を)向けることができたことではないかな、と思っています。
ダニエル・ウォールのレビューでは、このムーヴメントにおいてある種の音楽的スタイルがあるのではないかという前提のもとレビューを組み立てていましたが、半年以上経って多少なりイメージが変わり、音楽的なスタイルよりもむしろ自発的な(それこそDIYな)精神を持ち、フレキシブルに動く楽団の増加こそがこのムーヴメントの大切なところなのだろうな、と思っています。

このムーヴメントの中心となった地域は間違いなくアメリカのNYでしょうが、実は結構色々なところで同様な動きが見られるような予感も感じ始めているところでして、パッと思いつくところで言えば、同国メリーランド州で行われたフェスで出会ったストリングス・カルテットを招聘して新作"Gardens in My Mind"を作ったジョアンナ・ウォルフィッシュなどもこの動きに共鳴していたように思います。

彼女の出身はUKのロンドンでしたが、同地出身のポスト・ロック/マス・ロック・ユニットHe Was Eaten By Owlsが満を持して発表した1stフルアルバム"Chorus 30 From Blues For The Hitchhiking Dead"も、クラシカルなテクスチュアを内に取り込みながら、そういったDIYな空気を強く感じさせる力作に仕上がっています。

ユニットはマルチ奏者のカイル・オウルス(Kyle Owls)とドラムス/パーカッション担当のヴィリアス・カンクラリス(Vilius Kancleris)のデュをを中心として成り立っており、この2名のみで活動している時期もあるようで、youtubeではその頃のライヴ動画を見ることができます。

基本的にはカンクラリスの叩き出す変拍子/複合拍子を詰め込んだドラムと、オウルスによるクリーントーンの酩酊ギターを中心として楽曲が構成されているのですが、そこにさらにヴィオラやチェロといったストリングスに、クラリネットやトランペット、フリューゲルホルンやバスクラリネットといったブラスが加わります。
これらのストリングス/ブラスは、2名の複雑な演奏に難なく対応しながら、クラシカルな、そしてジャジーなテクスチュアを加えつつ、更にはオウルスのギターフレーズに対位法的に絡んでいくフレーズを奏でることで楽曲に躍動感を与え、豊かな色彩感を付与しています。

ロンドン交響楽団を始めとし、様々な楽団の出身者から構成されたこのストリングス/ブラス隊が、中心となる2名の音楽にただのマスロック/チェンバーミュージックに留まらない魅力を与えていることは間違いありませんし、また、そういった複数のパートが入り乱れることを前提とした楽曲を書き、アレンジを加えるオウルスの作曲/アレンジ能力の高さにも注目すべきだと思います。

フィジカルは当然有料ですが、デジタルのみで良ければbandcampにて無料(Name Your Price)で手に入れることができます。
かなり魅力的な作品ですので、是非聴いてみてください。(気に入ったらぜひフィジカルを!)


King Crimson "Radical Action to Unseat the Hold of Monkey Mind"

kingcrimsonra.jpg


Artist: King Crimson
Album: "Radical Action to Unseat the Hold of Monkey Mind"
Label: DGM
Year: 2016

Tracklist
収録内容はこちら
(Burning Shedの3CD/2DVD/1Blu-Ray版のページ)


"Live in Toronto"のレビューでも触れたとおり、King Crimsonの、日本公演(しかも私の参加した高松公演)中心とした音源からセレクトされた、昨年のツアーのベスト・ライヴ作品がDGMよりリリースされました。
音源と映像とでそれぞれ収録内容が微妙に異なるようで(細かい収録場所などのデータは非公開のためイマイチ分かりませんが…)、さらに音源の方はライヴをそのままではなく、観客の歓声をオミットし、さらに曲順も思案の上3枚に分けることで、独立した作品とすることを目的として制作されたようです。

演奏そのものの大枠については高松公演のライヴレポ"Live in Toronto"をご参照いただくとして、今回はそういった、本作の編集面について述べさせていただきます。

ディスク1は'Larks' Tongues in Aspic'2曲を最初(パート1)とラスト('The Talking Drum'~パート2)に配し、間には本作のタイトルともなった新曲'Radical Action'や'Meltdown'、クリムゾン・プロジェクトの'The Light of the Day'、そしてトリプルドラムの見せ場であった'The Hell Hounds of Krim'~'The ConstruKction of Light'などを収録し、"Mainly Meatl"というサブタイトルのとおり、今回のツアーにおけるヘヴィなインストナンバー中心の選曲です。
'Radical Action'のパート2は今作で初の収録("Live in Toronto"の時点では'Meltdown'前にパート1があったのみ)となりましたが、改めて聴くとやはり'Level Five'に繋ぐことを意識してパート1のリフを用いながらも'Level Five'の変奏/導入として作曲されたものであるように感じました。

ディスク2は一転して歌もの中心の選曲で、"Easy Money Shots"というサブタイトルが付けられています。
個人的に、本ツアーで最も面目躍如した楽曲であると思う'Pictures of a City'を始め、'Easy Money'、'The Letters'など重厚な歌曲が並ぶと同時に、日本公演では殆ど演奏されなかった'Suitable Grounds for the Blues'や、さらに'VROOOM'や'The Sailor's Tail'などのインスト曲も収録されています。(また、冒頭の'Peace'は日本公演で歌われた、1stヴァースを日本語訳したものです。)
個人的にはディスク1とディスク3それぞれに代表曲を取られてしまってやや地味な選曲になっている感も否めませんが、全体的な流れは悪くありませんし、'VROOOM'などは"Live in Toronto"からもさらにアレンジが変更され、メル・コリンズのサックスも十分ヘヴィに響いており、トロントから1ヶ月程度でもこのラインナップの演奏がレベルアップしていることが分かると思います。

そしてディスク3。
"Crimson Classics"というタイトル通り、クリムゾンの名曲目白押しの選曲となっています。
これでもかと繰り出される名曲の数々に、歓声がオミットされていることもあり、「架空の名作」のような雰囲気が濃厚に漂っています。

全体通して聴いてみると、かなり色々な時期(80年代以外から満遍なく選曲)の楽曲を演奏しているにも関わらず、今のクリムゾンの演奏として一本の筋が通っているように感じるのは流石といった感じです。
新曲については、(ドラム主体の'The Hell Hounds of Krim'などはともかくとして)ミレニアムクリムゾン以降の空気が強く感じられるように思いました。

ちょっと意外だったのはタイトルに'Blues'と冠した上、内容も(それまでのクリムゾンに比べると)ちょっぴりブルーズっぽい'Suitable Grounds for the Blues'でした。
"Earthbound"などでも記録が残ってい通り、一時期はブルーズ的な演奏を断固拒否さえしていたフリップがこんな曲を演るなんて、時間は人を色々と変えるのだな、なんて妙な感慨にひたったりします(笑)

映像については、基本的に映像作品として出す前提での撮影ではなかったようなので、そういう作品として見ると物足りない部分も残りますが、演奏(特にフリップの)の手元が要所要所ではっきりと見れたりと、これはこれで面白いものでした。(あのお化けみたいな編集はちょっと笑っちゃますけど)
なにより、こちらも多くは高松公演ということで色々記憶と照らし合わせながら楽しむことが出来そうで、本当に有り難いと思います。
ただ、性質上画質も無茶苦茶良いというわけではないので、わざわざBlu-Rayを買う必要はないかもですね。Blu-Rayの利点は全曲をぶっ通しで見れる、ということだけだと思います。
あと、6枚組BOX(3CD/2DVD/1-Blu-Ray)など出てますが、2DVDと1Blu-Rayの収録内容は全く同じですので、これから購入予定の方はその辺り了解のうえでフォーマットを選択していただけたらと思います。

すでに新しいツアーが開始し、'Fracture'などやったという情報も入っています。(なんと速度も上がってるとかなんとか…)
今年は流石に日本に(というか高松には)来ないと思いますが、機会があればぜひ次回の来日公演にも行ってみたいと思いますし、それまではこのフルヴォリュームの作品をちょくちょく聴き返しながら、想い出の高松公演の記憶に浸りたいと思います(笑)


坂本慎太郎 "できれば愛を(Love If Possible)"

lipss.jpg


Artist: 坂本慎太郎
Album: "できれば愛を(Love If Possible)"
Label: Zelone Records
Year: 2016

Tracklist
01. できれば愛を(Love If Possible) (5:26)
02. 超人大会(Tournament of Macho Man) (3:42)
03. べつの星(Another Planet) (4:39)
04. 鬼退治(Purging The Demons) (3:25)
05. 動物らしく(Like an Animal) (3:56)
06. 死にませんが?(Feeling Immortal) (4:04)
07. 他人(Others) (6:17)
08. マヌケだね(Foolish Situation) (4:00)
09. ディスコって(Disco Is) (4:57)
10. いる(Presence) (3:44)
※初回版・通常版ともに上記のインスト盤(Disc 2)が付属


坂本慎太郎の新作を聴く度、学生時代に先輩が彼を評して言った「現代の妖怪」という言葉に納得しているような気がします。
最新作の"できれば愛を"でもそれはいつも通り、あるいは、もしかするとこの作品は今まで以上に彼の「妖怪」感=底知れなさを物語る作品なんではないかな、と思えてきます。

前作"ナマで踊ろう"は、あえて強烈にポリティカルな言葉を使い、それを政治など全く関係ないかのようなサウンドと組み合わせることで、言葉そのものを「一種のステレオタイプなイメージ」と「本来の意味」の2つの側面で認識させ(あるいは認識させなくさせ)、ユートピア/ディストピアが反転しながらないまぜになるようなサイケデリアをリスナーにつきつける、非常にコンセプチュアルな作品であったと思います。
正直鬼気迫るほどの完成度だったと思いますので、次の作品が大層作りづらいだろうなぁ、とは思っていたのですが、当の本人はこんな一リスナーの心配などどこ吹く風といった雰囲気で、さらりと本作のような作品をドロップしてくるのだから、もう降参です(笑)

まず、アルバム開始と同時に強く意識されるのは、音の鳴りではないでしょうか。
坂本がインタヴューで「部屋鳴りとかも一緒に録った」と言っている通り、本作は全編通しスタジオの部屋/壁の存在、そしてそこで演奏しているメンバーの息遣いを感じさせるような生々しい音で録音されることで、非常に印象深いサウンドに仕上がっています。
最初のドラムが入ってきた瞬間から、まるで彼らの演奏するスタジオに招かれたかのような錯覚に陥るのですが、同時に、スタジオの外の世界は全く存在していないかのようでもあり、かなり地下室っぽい、密室感のあるサウンドでもあると思います。

楽曲については今回も、ゆらゆら帝国時代の"空洞です"から地続きの「宙吊りのサイケデリア」を強く感じさせるものになっているように思います。
重心低めでちょっぴりレゲエ/ダブっぽいゆるさのあるドラム、モコモコとした音像で這いまわるベース、ドリーミーな音色で浮かんでは消えるキーボード、艶やかなサックス、おどけて転がるマリンバ、そしてもはや彼のソロ作品でのトレードマークとも言えるラップスティールギターが織り成す音は相変わらずファンク/AOR/ソフトロックを視野に入れたスムースなものです。
かなりシリアスな感のあった前作に比べるとメロディも人懐っこいものが多い印象で、全体的な雰囲気には、むしろ1st"幻とのつきあい方"とその後のシングル"まともがわからない"あたりに通底するようなものがあります。

坂本の声には相変わらず思慮深さとエロスが宿っておりますので(笑)、彼が歌い出すとどうしても得も言われぬ不気味さが漂うようには感じますが、歌われる歌詞については対立する2つの要素のどちらにもよらない、というような内容のものが多く、そういった部分でも相変わらずの「宙吊り感」が強く感じられます。
正直、歌詞については多くの人がシリアスにとりすぎというか、むしろ「声」という独特のテクスチュアを持った楽音だと思った方がいいのかな、なんて思ったりもするんですよね。
なんと言っても、バンド時代の'空洞です'では「通ってごらん」なんて言ってた「空洞(穴ぼこ)」について、今回はそこに「何か入れてくれ」なんて歌ってるんですから(笑)

この「意味があるようでないような(それでやっぱりあるような)感じ」が、何度も申しますように「宙吊り感」につながっているわけです。
坂本自身、「朝起きて、「ああ今日から夏休みだ」と思って。「まだ寝てていいんだ」って思う。その思った瞬間を引き延ばしたような音楽」なんて語っていますが、密室感の強い、外界を意識させないサウンドと彼の歌とが合わさって、今作を聴いている間はまるで時間が止まっているような感覚に陥ります。
前作は全てが過ぎ去った後の世界を設定することで時間を超越した部分に作品を置くことに成功しましたが、今作はむしろ「今」という一瞬にフォーカスして、それを永遠に思えるまでに引き伸ばすことで時間そのものを無化しようとしてるのかもしれません。

彼の声、歌詞、そしてメンバーたちの生み出すサウンドは正にそれを達成していると思いますし、そのおかげか今作は聴いていて、嫌なことを全て忘れさせてくれるようでとても心地よいです。

また、前作についてはSly & The Family Stoneの"There's A Riot Goin' On(暴動)"とつなげるような評が多かったような記憶があります。
それになぞらえれば、前に比べればポップだけど、それでも閉塞的で密室的な空気を存分に香らせる今作は坂本なりの"Fresh!"であるようにも思えます。

聴けば聴くほど、彼が普通の感覚で作品を作っていないんだということをつきつけられている気分ですね。
やはり「現代の妖怪」は伊達じゃない、といったところでしょうか(笑)


Various Artists "Day of the Dead"

dayofthedaedva.jpg


Artist: Various Artists
Album: "Day of the Dead"
Label: 4AD/Red Hot Organization
Year: 2016

Tracklist
(多すぎるので割愛します。詳細はこちらを。)


USのインディー・ロック・バンドThe Nationalのアーロン&ブライス・デスナー兄弟の主導により、Grateful Deadのトリビュート作品が、なんとCD5枚というフルヴォリュームにて制作されました。
本作は、かれてよりポップカルチャーを通じてAIDS撲滅のための運動を続けてきたRed Hot Organiztion(フェラ・クティやアーサー・ラッセルなどのトリビュート作もここを通じて出ています)の運動の一環でもあり、2012年以降4年もの歳月をかけて準備されたもののようです。

しかしながら、今回題材に選ばれたGrateful Deadについて、我々日本人がどの程度の実感を持って接しているのか、正直な所疑問に思わざるを得ません。
あのフランク・ザッパですら「一般的なアメリカのキッズの希望」のステレオタイプとしてデッドのライヴという事象を歌詞中に引用している("You are what You is"収録の'Teen-age Wind'冒頭)ことからも、デッドの音楽はアメリカ人のどこか深いところに根ざした音楽である、ということは薄々感じるところではあります。
また、熱狂的なデッド・ヘッズによるライヴのオーディエンス・テープの共有(シェアリング)を許可したり、それどころかテーパー用のブースまでライヴ会場に設置したり、仲介業者を挟まずに直接チケットを販売したり…と今日的な音楽ビジネスの先駆け(どころかまだ数歩先に行ってる?)と見れるような試みもしており、そのことが彼らの音楽に「アメリカ文化の偉大な一部」として根を下ろすことを可能にしたのだろう、という推測など、客観的な事象の分析からはいくらでも言えるのでしょうが、ではそんなことで魅力ゼロの音楽がここまで評価されるのか、というと当然ノーなわけでして、やはりデッドの音楽そのものにアメリカ人の心を掴んで離さない何かがあるのだ、と考えるのが妥当でしょう。
そして繰り返しますが、我々日本人リスナーの殆どは、それをきっと理解/体感できていないのです。

そこへきて今作です。
5時間半にも及ぶ長大な作品の中には、USインディー・ロック界だけでなく様々なジャンルのミュージシャンが参加しています。
最もジャンル的に近しいと思われるオルタナ・カントリー界からはWilcoを初めボニー"プリンス"ビリーことウィル・オールダムやルシンダ・ウィリアムスなどが、電子音楽界隈からはなんとティム・ヘッカー(個人的に一番の驚きでした)が、ジャズ界ではヴィジェイ・アイヤーが、モダン/インディー・クラシックに関係するSō Percussionや、果ては国外よりセネガルのOrchestra Baobabなど、ざっと挙げただけでもカオスとしかいいようのない雰囲気は伝わると思います。

もちろん、彼らの手によりデッドの音楽は様々な変貌を遂げています。
各曲の詳細については、twitterでフォローさせて頂いているAbstellraum(@Abstellraum4)様がブログ記事において簡潔に触れてくださっていますので、そちらをご参照いただければと思いますが、個人的に印象に残ったものに少し触れておきますと、主宰のブライス・デスナーはガルシアのギターを題材に、ライヒ風のミニマル作品(ディスク3の3曲目。タイトルがそのまんま)を構築していますし、ティム・ヘッカー(ディスク2の9曲目)は最早未発表曲と言われても信じてしまいそうな雰囲気です。
その他、ディコティックな原曲をややデカダン気味のデジタルファンクに仕上げたUnknown Mortal Orchestra(ディスク4の5曲目)やはり未発表曲と言われても信じてしまいそうなアイヤー(ディスク4の11曲目)や、がっつり実験音楽のSō Percussion(ディスク5の7曲目)あたりが今のところ特に印象に残っています。
個人的には偏愛している'Deupree's Diamond Blues'("Aoxomoxoa"収録)を誰か(名前通りテイラー・デュプリーとか笑。4AD絡みとはいえティム・ヘッカーがいるんだからやればできたのでは?笑)にやってもらいたかったところですが、それがなかったのは多少残念です。

多少話が脱線気味になりました。
色々なミュージシャン達がデッドを色々な切り口で料理していますが、これは別にデッドそのものが横断的な要素を含んでいるというよりは、それだけアメリカ音楽のイディオムの深奥にデッドが根を下ろしているということの証明なのではないかと思うのです。
そもそもデッドの根本的な音楽性自体、ブルーズ/ブルーグラス/カントリー/ロックンロール/ジャズを主軸として、その先祖としてのUKトラッドを根底に持っていますが、他の要素(サイケデリックやアメリカン・ロック、またはレゲエやディスコ)は時代の要請により同調していった部分が大きいのではないかと思います。
つまりは、後述の方の要素は元々の彼らのイディオムとはちょっとずれている、だからこそ表層的には様々なスタイルの作風が聴けるのですが、やはり根本にはずっしり先述した方の要素(ブルーズ他)が横たわり、普遍的にアメリカ音楽と同化しながら、同時代的な音楽にも同化するという稀有な所作を見せたことがデッドの(アメリカにおける)永遠性/普遍性につながっていったのかな、と思うわけです。
「古くて新しい」あるいは「新しくて古い」、時代性を超越したロック・バンド、それこそがデッドなのかなぁ、と。

これをもって「アメリカ人の感覚と全く一緒だ、私は彼らの感覚を理解した」などと言うつもりは毛頭ありません。
正直な所サイケファンの私としては、デッドはやはりアメリカンサイケの筆頭バンドであることに変わりはありませんし、70年代後半以降の作品をこれから聴くようになるか、というと正直わからないところでもあります。(そもそも、まだ聴けてない作品もたくさん…)
でも、こんなことを考えたのも5時間を超える本作をだらだらと流しながら聴いたからであり、そのおかげでほんのちょっぴりだけ、小さな一個人からしたら無限に等しい地平と時間を有するアメリカの空気と、そこに深く根を下ろしているデッドというイメージが感じられたからなのです。

本作は、デスナー兄弟のというよりは、アメリカそのものの、デッドに対する愛がそのまま形になったようなコンピレーションなのです。
"United States Loves Dead"という感覚、理解できなくて悔しい気持ちはあれ、なんだか羨ましい気がします。


やっぱ一番好きなのはUnknown Mortal Orchestraかなー。
プロフィール

vuoy

Author:vuoy
音楽好きです。
情報に間違いなどありましたらコメント欄で結構ですので気軽に連絡ください。
Last.fm
twitter

【注意事項】
まれに、当blogの記事をオークションの商品説明に引用またはURL貼付されているページを見ることがあります。
当blogの記事はあくまで個人の感想であり、ミュージシャン本人以外の利益に供する目的はありませんので、商用目的での無断引用/URL貼付はご遠慮願います。
どうしてもという場合には、twitterなどでご相談いただければ検討しますので何卒ご理解いただきますようよろしくお願いします。

アクセスカウンター
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
vuoy's Profile Page
Twitter
検索フォーム
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
音楽
307位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
洋楽
67位
アクセスランキングを見る>>
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR