Moe and ghosts × 空間現代 "RAP PHENOMENON"

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Artist: Moe and ghosts × 空間現代
Album: "RAP PHENOMENON"
Label: HEADZ
Year: 2016

Tracklist
01. DAREKA (4:45)
02. 不通 (4:33)
03. 幽霊EXPO (3:34)
04. TUUKA (2:22)
05. 新々世紀レディ (5:13)
06. 可笑しい (5:34)
07. 少し違う (8:19)
08. TASYATASYA (0:50)
09. 同期 (4:32)
10. DOUKI (4:19)
11. 数字 (5:28)
12. ITAI (2:40)


HIPHOPとロックとは、古くはRUN D.M.CとAerosmithによる'Walk This Way'や、Public EnemyとAnthraxによる'Bring the Noise'に始まり、90年代にはHIPHOPのグルーヴやラップをロックに取り入れたニュー・メタル(Nu Metal、ラップ・メタルとも)や、近年のラップコア(メタルコアからの派生)など、様々な形での関係を時代時代で結んできたように思います。
ここ50年(特に60年代~90年代)のポピュラーミュージックにおいて、間違いなく最大級のモンスタージャンルであるロックと、それに取って代わるかのような勢いで、さらにはブラックミュージック全般を飲み込み更新するかのように浸透してきたHIPHOPとの共演には、常に互いが互いを喰い合うかのような居心地の悪さと、それに起因する緊張感とがありました。

そして、2011年より活動を開始し、イーストコースト(東海岸)でもウェストサイド(西海岸)でも(そしてもちろんダーティサウスでも)なくゴーストコースト(彼岸)HIPHOPを標榜するHIPHOPユニットMoe and ghostsと、今年より活動の拠点を東京から京都へと写し、エクスペリメンタルなコラージュ感覚と反復を前提とした楽曲を3ピースのロックバンドの形態で演奏するロック・バンド空間現代という2者のコラボレーションによる"RAP PHENOMENON"は、今まで行われたHIPHOP/ロックの共演の中でも最もちぐはぐで理解しがたく、そうでありながらもトップクラスに刺激的な傑作になったと言えます。

本作では、基本的には萌のラップと空間現代の演奏により楽曲を構築するという方法論が採られており、ユージーン・カイムによるトラックは控えめ(だと思う)なようです。

まず、空間現代の演奏が非常にトンガッておりまして、3ピースがそれぞれ別のリズムで演奏を反復し、中断し、再開するというパッと聴いただけでは何がなんだか分からないほどに変拍子/ポリリズムの嵐のような演奏になっています。
変拍子ロックというとどうしてもあぶらだこや、最近で言うとtricotなどの熱い演奏を思い浮かべますが、空間現代のそれはむしろ全くの逆と言ってよく、ノイジーなギターや、ズンズンと低音を響かせるベース、楔を打ち込むかのように硬質なドラムスなどによるソリッドな演奏は非常に歯切れよいものであり、それが突如中断・再開されながら反復される様子からはロック的な熱量が全く感じられません。
ダブを取り入れてロンドンの、ひいてはUKの冷気を身に纏わせたポストパンクの作品群(個人的にはOn-U Soundあたりに似た空気を感じます)ような切れ味の鋭さ、クールネスを感じさせてくれます。

そこに言葉を乗せる萌のラップもまたアブストラクトで、言葉を詰め込みながら加速減速を繰り返しますが、その周期というかリズムがまだ空間現代の演奏と噛み合っているんだか噛み合っていないんだかという加減で、その声が持つアンニュイなテクスチュアと相まって、彼女たちの標榜する「ゴーストコースト」という表現が正にピッタリの、無感情で虚無的なニュアンスを全編に漂わせています。

演奏とラップは、互いに殆ど無関係のような表情で並行して進んでいきますが、そこには確かにグルーヴが存在しています。
萌のラップがガイドラインとなり空間現代の演奏に(おそらくはずっと以前の作品から)隠されていたグルーヴを認識させる場面や、逆に空間現代の演奏が萌のラップに更なるスピード感を付与する場面も見られますし、2曲目や7曲目の終盤で彼ら/彼女らの演奏が完璧に絡み合った瞬間には言い表しがたいカタルシス/高揚感を感じるでしょう。

このコラボレーションを聴いていると、やはりHIPHOPとロックは水と油で、両者の共演には常にちぐはぐな居心地の悪さが付きまとうということを再認識せざるを得ません。
しかし、そうであるからこそ、この共演には他のジャンルがクロスオーヴァーした時には現出し得ない極上の緊張感と、それにともなうクールネスが実現されうる可能性がまだまだ秘められているということに対してもまた、確信を深くすることでしょう。


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Robert Glasper "Everything's Beautiful"

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Artist: Robert Glasper
Album: "Everything's Beautiful"
Label: Sony Legacy/Blue Note
Year: 2016

Tracklist
01. Talking Shit (3:09)
02. Ghetto Walkin [feat. Bilal] (3:43)
03. They Can’t Hold Me Down [feat. Illa J] (2:14)
04. Maiysha (So Long) [feat. Erykah Badu] (7:30)
05. Violets [feat. Phonte] (3:24)
06. Little Church [feat. Hiatus Kaiyote] (6:35)
07. Silence Is The Way [feat. Laura Mvula] (5:18)
08. Song For Selim [feat. KING] (2:40)
09. Milestones [feat. Georgia Ann Muldrow] (4:17)
10. I’m Leaving You [feat. John Scofield and Ledisi] (3:14)
11. Right On Brotha [feat. Stevie Wonder] (5:01)


ロバート・グラスパーによる最新作は、ジャズの帝王マイルス・デイヴィスをテーマとしたものです。
今年はマイルスの生誕90周年かつ没後25周年ということで、75年の一時引退後、79年に復帰するまでの間を描いた映画『マイルス・アヘッド』も制作され、そちらのサウンドトラック盤もグラスパーが監修しているようです。(未聴)

マイルス・デイヴィス本人はグラスパーが13歳の時になくなっていますので、正直な所彼にどこまでの実感を持ったトリビュートができるのか、というのがやはり気になるところですが、何度も聴いてみると「ジャズの帝王」という威厳ある、偶像化されたイメージではなく、ポピュラー・ミュージック界におけるヒップなスターとしての存在感を示した1人のミュージシャンとしてのマイルスを描写しているような雰囲気で、逆に良かったのではないかな、と思います。

本作においてグラスパーは、単純にマイルスの演奏/作品からのサンプルを持ってくるのではなく、サンプルするにしても自分やゲストミュージシャンの演奏を重ねることで、マイルスのカヴァーやマイルスを素材とした作品を作るのではなく、マイルスにインスパイアされたグラスパーの作品として仕上げることを選んでいます。

そしてまたテーマにした楽曲がまたマニアックというか渋いというか…(笑)
ソニーレガシーの倉庫を自由に使わせてもらえたから、ということもあるのかもしれませんが、いわゆる「大ネタ」的なものはありません。
先行で公開された'The Ghetto Walkin'からしてそうですが、名作"In a Silent Way"…のセッション曲'The Ghetto Walk'の冒頭の演奏を拡大し、そのにHIPHOPビートやビラルの歌声を組み合わせることで一つの楽曲として構成し直しています。(ちなみに、'The Ghetto Walk'はレガシーから出ている3枚組BOX"The Complete In a Silent Way Sessions"で聴けます。)
その他にも、"Get Up with it"にて怪しげなセンチメンタリズムを醸していた'Maisya'のボサノヴァ由来の部分に焦点を当ててみたり、名曲'Blue in Green'のスタジオ録音の際のミステイクをループさせてみたり、あるいはなぜか"Live-Evil"の中で、大曲でなくあえて小品の'Selim'を引っ張ってきて今をときめくコーラス・グループKINGに歌わせてみたり…とかなり好き放題やっています。

その姿勢には、一定の評価がなされているものでなく、現在の音楽シーンの中を生きるリスナーの1人としてのグラスパー自身がヒップである、クールである、と思える素材を使いたい、という意志が見て取れます。
そしてそれは、音楽家として物心がつく前に亡くなってしまった大いなる先達に対するトリビュートの姿勢として非常に正しいのではないかと思いますし、常にシーンの前衛(ヒップという意味で)に立とうとしたマイルスに対するグラスパーなりの敬意として評価すべきなのだと思います。

全体的には9曲目以外ではソロを弾くこともなく(9曲目もゲストのジョージア・アン・マルドロウの要請があったからのよう)、鍵盤をプレイはしつつもあくまで全体のプロデュースに専念しているような印象が強いのですが、そのことと、楽曲ごとに異なったゲストを迎えているためにそれぞれ個人の「意志」みたいなものが強く表出することがなかったのはこの手のなめらかな聴き心地のあるHIPHOP作品にはとても良かったのではないでしょうか。

グラスパー本人の演奏家としての、あるいはジャズ・ミュージシャンとしてのプレイアビリティやプライドは控えめに隠しながら、あくまで偉大な帝王へのトリビュートとして、彼なりの姿勢で臨んだ作品として一聴の価値がある作品だと思います。


Kendrick Lamar "Untitled Unmastered."

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Artist: Kendrick Lamar
Album: "Untitled Unmastered."
Label: Aftermath/Interscope
Year: 2016

Tracklist
01. untitled 01 08.19.2014 (4:07)
02. untitled 02 06.23.2014 (4:18)
03. untitled 03 05.28.2013 (2:34)
04. untitled 04 08.12.2014 (1:50)
05. untitled 05 09.21.2014 (5:38)
06. untitled 06 06.30.2014 (3:28)
07. untitled 07 2014-2016 (8:16)
08. untitled 08 09.06.2014 (3:55)


デモ/アウトテイク音源集、というのは不思議な魅力を持っています。
そしてそれは、ミュージシャンがノリにノッている時期のものであればあるほど、また、辺縁情報を省いた簡素な形での発表であればあるほど良い、というのは言うまでもありません。
そういう意味では、昨年のアルバム"To Pimp a Butterfly"がグラミー賞を受賞し、今どのミュージシャンよりもノリにノッているラッパー ケンドリック・ラマーが突如リリースした"Untitled Unmastered."は発表の仕方からなにから素晴らしいとしか言いようがありません。(私自身は"To Pimp a Butterfly"をまだ聴いてないのですが 汗)

本作は"To Pimp a Butterfly"のセッションにおけるアウトテイクを集めたものであり、今月頭に突如デジタルで発表されました。
タイトルを冠さず、録音時期を記載しただけの全8曲という、HIPHOP作品としては珍しくコンパクトな作品ではありますが、本作には良く練られた名作がどうやっても持ち得ない、粗くざらついた活きの良さが十二分に宿っています。

便宜上曲という形にはされていますが、どの楽曲もビートやハーモニー、そしてラップの断片的なアイデアを継ぎ接ぎしたような、ぶっきらぼうな印象が強いです。
殆どの楽曲でサンダーキャットがベースを担当していることもあり、JTNC的なR&B~ソウル~ジャズ~HIPHOPの現代的な折衷感の強い、しなやかなグルーヴがアルバム全編を満たしていますが、そういった断片的な、良い意味でまとまりのない作風が、個人的に昨今のJTNC系の作品から感じることの多い「マンネリ感」を上手く回避してくれているように思います。

"To Pimp a Butterfly"に比べると客演もずっと少ないのですが、そのほとんどがヴォーカルというのも面白いところです。(先述のサンダーキャットも一部でヴォーカルを担当)
ラマー自身も言葉を詰め込んで弾丸のように畳み掛けるラップや、ゆったりと言葉を当てはめながら所々で強くアタック(?)してみるなど、様々なアプローチ/アイデアを試しているように思えますが、そこにまた様々なスタイルのヴォーカリスト達が絡むことで本作はとてものびのびとした自由さを感じさせてくれますね。
個人的にはネオソウル系の作品から聴き慣れているビラルやシーロ・グリーンの歌声が聴けるのが嬉しくもあり、またラマーとの声質の違いがはっきり見て取れて面白いと思います。

シーロの参加した6曲目などは、ラテンっぽいトロピカルなリズム/ハーモニーが彼の不思議な声とマッチしており、雑多な印象を受ける本作の中でも特に耳を惹きました。
その他にはアルバムのダークな空気を即座に確立する1曲目や、3曲目のソウルフルなクワイアっぽい女声コーラス、5曲目のお手本のようなJTNC的空気(グラスパー参加)、そして7曲目で見られるプログレッシヴな曲調の変化など、かなり聴きどころは多いように感じました。

これらの楽曲は、これから先の作品でさらに練り上げられた形で披露される可能性もあるのではないかと思います。
しかしそれらの良さは、冒頭でも述べたようにラマー自身がノリにノッている2016年初頭という時期に発表された今作の剥き身のラフな輝きとはまた別のものになってしまうのでしょう。
ここにある8曲の輝きは、まさにこのタイミングでしか味わえないものであるのは間違いありません。

本作をゲリラ的に発表したのはとても価値のあることだったと思いますし、ちょっとでも気になっている方はなるべく早めに聴いておいた方が良いと思います。
そういう意味で本作は間違いなく「今の音楽」なのです。



グラミーでのパフォーマンス。アレンジは多少違いますが3曲目だと思われます。

Shing02 + Cradle Orchestra "Zone of Zen"

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Artist: Shing02 + Cradle Orchestra
Album: "Zone of Zen"
Label: Palette Sounds/Village Again Asociation
Year: 2016

Tracklist
01. Zone of Zen (3:30)
02. Ampersand (4:36)
03. Twice As Nice (4:33)
04. Jipangu (4:10)
05. Windy Chimes (4:25)
06. Passionista (4:29)
07. Mad Stressor (4:36)
08. Flōwers (5:28)
09. Ephemerald (4:00)
10. Searching For (Remix) (4:51)
11. Zone of Zen (Remix) (3:01)


我が国のアンダーグラウンドHIPHOPシーンで活躍するShing02の活動は2つに大別できます。
1つはソロ作品に代表される、コンシャスなリリシスト/MCとしての活動、そしてもう1つは2010年に急逝したNujabesとの活動などに代表される、ポップなHIPHOP作品への客演です。
私自身、今年に入ってから改めて日本語HIPHOPを掘り始めたところで、彼の作品もまだまだ存じていないのですが、新年が明けて早々にリリースされた、Cradle Orchestraとの共同作品"Zone of Zen"はこの分類で言えば後者に該当すると思います。

プログラミングされたビート/多少のトラックとバンド演奏を共存させることで作られた本作は、とにもかくにもピアノ・オリエンテッドな作品と言えると思います。
本作にはAyumi Katom-takuという2名の鍵盤奏者が招聘されており、前者はアコースティックピアノを、後者はキーボードを担当しています。
葉加瀬太郎や久石譲あたりを連想させるような、オリエンタルな風情あふれるメロディを、彼女たちの鍵盤が反復しながら発展させていくことで楽曲の骨子ができているものが多いですね。(06、10など一部の楽曲ではその役割をギターが担う場合もあり)

手法としては特筆して先進的/前衛的な点はありませんので、要はこのメロディや人懐っこい部分を好きになれるかどうかが肝要となる作品だと思いますが、個人的には気安く聴くことができて割りと気に入っています。
01、02、08、09などのアコースティックピアノが印象的な楽曲では、クラシックやエレクトロニカなどからの影響が聴取できるとともに、ピアノの残響がクリアに録音されており、とても美しい楽曲に仕上がっていると思いますし、03でのアンビエント風味、04での和楽器の導入(タイトルそのまんまですが)、05や06の熱くソウルフルな展開(06からはややラテンの影響も感じられます)、07のノイジーで攻撃的な雰囲気、10でのロックなアコースティックギターとグリッチーなビートなど、楽曲ごとに色々なスタイルを見せてくれるためアルバム全体通してヴァラエティ豊かで、だらだらとしたような所はありません。

HIPHOPが本来的に持つドープなサイケデリアについては、おそらく最初から志向していないのだろうと思いますが、楽曲は非常によく練られており、Shing02の軽めの声質も非常によくマッチしております。
1曲がおおよそ3~5分、アルバム全体で11曲48分と、コンパクトにまとめているのも好印象です。
ラストが01のリプライズ(リミックス)で終わるということで、ちょっぴりコンセプチュアルな雰囲気でアルバムが終わるのもまた良いですね(狙ったわけではなさそうですが 笑)

Shing02に先鋭性や攻撃的な姿勢を求めるファンには不評な気もしますが、ポップなHIPHOPとして気軽に、くつろいで楽しめる良い作品だと思います。
気安く聴けるが故に、結構今年通して聴いちゃいそうだな(笑)


A$AP Rocky "At.Long.Last.A$AP"

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Artist: A$AP Rocky
Album: "At.Long.Last.A$AP"
Label: RCA
Year: 2015

Tracklist
01. Holy Ghost [feat. Joe Fox] (3:11)
02. Canal St. [feat. Bones] (3:47)
03. Fine Whine [feat. M.I.A., Future & Joe Fox] (3:38)
04. L$D (3:58)
05. Excuse Me (3:58)
06. JD (1:48)
07. Lord Pretty Flacko Jodye 2 (2:07)
08. Electric Body [feat. Schoolboy Q] (4:15)
09. Jukebox Joints [feat. Kanye West & Joe Fox] (5:24)
10. Max B [feat. Joe Fox] (4:01)
11. Pharsyde [feat. Joe Fox] (3:42)
12. Wavybone [feat. Juicy J & UGK] (5:03)
13. Westside Highway [feat. James Fauntleroy] (2:57)
14. Better Things (3:19)
15. M’$ [feat. Lil Wayne] (3:53)
16. Dreams (Interlude) (2:17)
17. Everyday [feat. Rod Stewart & Miguel] (4:21)
18. Back Home [feat. Mos Def, Acyde & Yams] (4:38)


今年はあまりHIPHOP方面には食指が動かなかった一年でした。
ケンドリック・ラマーもドレーも、話題作といえるものは全く聴いておりませんし、改めて今のシーンがどうなっているのかということもあまり存じておりません。
唯一聴いたのはNY出身のラッパー エイサップ・ロッキーが発表した2nd"At.Long.Last.A$AP"でした。

元々2013年の1stがチルウェイヴやダブステップ通過後のHIPHOPとして好評価を得ていたようですが、今作では非常にどす黒い(人種的な意味でなく)何かが渦巻くようなドロドロとしたサウンドがほぼ全編わたって繰り広げられております。
一部ではトリップホップ(特にPortisheadあたり?)と比較するような評もあるようですね。

ひたすら重苦しいビート、ズブズブに沈み込むようなサウンドスケープ、抑揚の乏しい淡々としたロッキー自身のラップ、そして彼が発掘してきたという謎のギタリスト ジョー・フォックスの慟哭にもにたソウルネスを感じさせる歌声といった一つ一つの要素からは強い喪失感が感じられます。
今年の初頭に彼が所属するHIPHOPチーム「A$AP Mob」のリーダーであるエイサップ・ヤムズを失ったことが、今作に陰を落としていることは間違いないと思います。
実際、ジャケットのロッキーの顔にはヤムズの顔にあった痣がコラージュされています。

ただ、それが単純に追悼の想いだけに還元されたかというとどうもそうではなさそうです。
近しい者が亡くなったからといって彼は結局ドラッグもセックスも捨てることは出来ていない、でもそれでいいじゃないか
というような諦念が、まるで通奏低音のようにアルバムの全体に流れているのです。

「ドラッグやセックスに溺れ続けて、次に親友のようになるのは自分かもしれない、でも気持ちいいからそれでいいし、そもそもこんな世の中で生き続けて何の意味がある?」

この作品を聴くと、そんな幼稚でありながらも答えようのない問を、アルバム通して投げかけられているような、ひどくダークで退廃的な気分にさせられるんですよね。
勿論、彼自身開き直ったわけでなく、親友の死が残した印象が彼の中でくすぶり続けていることは間違いありません。
1曲目や11曲目、17曲目などで聴かれるブルージィ、あるいはスピリチュアルな感覚は間違いなくある種の感傷の現れでしょうし、それがこの作品に分裂症的な印象も付与しているように思えます。

結局のところ、これはエイサップ・ロッキーという個人の思いが無遠慮に、そして、だからこそ真摯に叩きつけられた作品なのだと思います。
ポップでもクールでもなく、みっともなく泥臭い作品であるとは思うのですが、そういった「業」が滲みでたような今作に、私は強い魅力を感じずにはいられないのです。


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