Arto Lindsay "Cuidado Madame"

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Artist: Arto Lindsay
Album: "Cuidado Madame"
Label: P-Vine./Ponderosa
Year: 2017

Tracklist
01. Grain By Grain (3:30)
02. Each To Each (3:06)
03. Ilha Dos Prazeres (3:46)
04. Tangles (3:52)
05. Deck (3:22)
06. Vao Queimar Ou Botando Pra Dancar (3:31)
07. Seu Pai (4:05)
08. Arto Vs Arto (2:12)
09. Uncrossed (4:04)
10. Unpair (3:54)
11. Pele De Perto (2:30)
12. Nobody Standing In That Door (4:18)
※12は日本盤のみのボーナストラック


NYのノー・ウェイヴ・シーンでデビューし、一筋縄ではいかない遍歴を辿る音楽家アート・リンゼイの、前作"Salt"から実に13年ぶりとなる新作が、今年頭にリリースされました。
これが今年一発目の新作となった方も多いのではないでしょうか。(私はHelmでしたけど)

そもそも、彼の音楽的なルーツにあるのは、やはり多感な幼少期~青年期を過ごしたブラジルの音楽にほかならないと思います。
キャリアの最初期を飾るDNAでの演奏こそギターの調律無視(≒パーカッシヴ)な奏法によるアヴァン性が突出したものでありましたが、彼の根底にはブラジル音楽が、ひいてはそれにおいて後ろ向きな感情(サウダーヂ)がクールに歌われることで醸される独特の情感(多く見られる表現を借りて「官能」というのが適当かもしれません)があったのは間違いないでしょう。
そう思えば、今作の歌詞の多くにおいて何らかの「不在」が歌われているように思えるのも不思議ではないように思えます。
なぜなら、サウダーヂという感情の本質は「幸せだった過去」が「今は存在しないこと=不在」にあるのですから。

Ambitious Lovers以降はそういった自身のルーツを素直に出し、ソロの諸作においてその傾向はいっそう強まりました。
特に前作"Salt"はその極地とも言える作品で、ノイジー/インダストリーなビートによるグルーヴと残響の生み出す奥行きとが、彼の紡ぐメロディ/歌詞をいっそう引き立てる、重厚な雰囲気の感じられるものでした。

今作はそれに比べるとさらに歪さを感じさせる音が増え、DNA期を思い出させるノイズギターも今まで以上にフィーチュアされているように思いますが、「不在」を歌うという内容とは裏腹に、その感触はとても軽やかで小気味良く、どこか爽やかにすら思えます。
今作で彼は「カンドンブレとゴスペルの融合」というテーマを念頭におきながら作成したとのことですが、実を言うとカンドンブレ音楽を特徴付けるリズムというのは、彼が昨年プロデュースしたロウレンソ・へベッチスのデビュー作でも非常に効果的に使われており、あの作品に参加した打楽器奏者3名は今作にも名を連ねています。
ヘベッチスの作品では「ビッグ・バンド・ジャズ/ラージ・アンサンブル」との組み合わせが試みられたカンドンブレ音楽は、今作ではゴスペル、つまり「歌」との組み合わせが試みられたというわけです。

複数の打楽器が複雑に絡み合い、速いのか遅いのか、スピード感覚を狂わせるようなサイケデリアを生み出すカンドンブレのリズムは、アートのギターを始めとするや様々なノイズ、盟友メルヴィン・ギブスによるベースライン、デジタルビート、そしてアート自身のか細い歌声など、音楽的/非音楽的に関わらず全ての音を飲み込み、統合するかのようにも聴こえてきます。
そういった印象に起因するのだろうと思いますが、「実験と官能」という表現であたかも彼がそれを両立しているかのような評がそこかしこで見られるなか(事実私も前作のレビューでそういったことを述べたようにも記憶しているのですが)、今作を聴いていると彼にとって主たる目的なのは「官能」の方で、「実験」は(「非実験」も含め)それを効果的に表現するための手法に過ぎないのかもしれない、と感じました。

「実験と官能の使徒」ではなく、ただ純粋な「官能の使徒」あるいは「マエストロ」として実験的/非実験的に関わらず効果的な「音」を効果的に活用することで生まれた「職人的な快作」こそが、今作の本質なのかもしれません。

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No title

vuoy様 こんばんは

アート・リンゼイのアルバムが出ていたことは知っていたのですが
13年振りだったのですね。驚き。

カンドンブレという言葉はここで初めて知りました。
なるほど、宗教音楽の側面もあるのですね。

確かに打楽器がそれっぽく
「スピード感覚を狂わせるようなサイケデリア」
というのはなるほどと思いました。

聴いていると
へたーーーって気分になりました。



Re: No title

>> ジェシー芝山 さん

こんばんは。
前作"Salt"も素晴らしい作品でしたが、今作はこの特徴的なリズムによって、
より個性的なポップ・アルバムに仕上がったと思います。

本文中でも挙げているロウレンソ・ヘベッチスの昨年のアルバムも是非聴いていただきたいのですが、
個人的にはこのリズムにはセネガルのンバラに近い感覚を感じております。
リズムそのものがサイケデリックというのも中々珍しい感覚だな、と。
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